研究課題/領域番号 |
17K03351
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
川端 康之 横浜国立大学, 大学院国際社会科学研究院, 教授 (70224839)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 欧州連合 / 指令 / キャッシュ・フロー法人税 / デジタル税 / 租税条約 / 国家補助 / State Aids / 外国法人 |
研究実績の概要 |
平成29年度は、本件研究の第1年度であるため、従来の研究で収集した資料情報に加えて、それ以降に現れた資料情報を収集することを主たる活動内容とした。 従来の研究では、米州の法人所得課税を前提に、米州企業が欧州においてどのような租税負担軽減行動をとり、それが両地域間の緊張の原因になっているかを、欧州の視点から考察した。 しかし、2016年に米国連邦政府で政権交代が行われ新大統領が就任すると、米国の従来の法人所得課税の枠組みが大きく動き出すこととなった。具体的には、連邦法人所得課税の課税ベースのキャッシュ・フロー化で、共和党案や大統領案など政権サイドでも複数の構想が明らかにされた。米国の法人税改革の特徴は、税目の根幹である課税ベースについては大胆な改革を提案しているのに対して、租税回避については具体的対応策があまり見られないという点にあると考えられる。また、米国系企業の海外関連企業が現地で積み上げた留保利益の米国への送還についても米国国内税制側が譲歩することで国内送還を助長するような方策を国内税制上再度採用する方向である。 興味深いことに、それらについて欧州各国や欧州委員会が機敏な対応を見せている。2017年12月初旬に、欧州連合加盟国のうちドイツ他合計5カ国の財務大臣が連名で米国連邦財務長官や連邦議会下院歳入委員会・上院財政委員会両委員長他を名宛人として、米国の税制改正案がそのまま成案となった場合には、その新しい法人所得課税は、これらの欧州各国と米国が締結する租税条約に違反する、という重大な警告を行った。従来の米国の税制改革においては、改革途中で欧州関係国がそのような「警告」を発することはなかったが、今回は租税条約を奇貨として、欧州は米国に対して強い政治的嫌悪感を示した。この点は、従来見られなかった欧米間の租税関係として、今後本研究において綿密に分析する必要があろう。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の主たる活動である資料情報の収集については、平成29年6月にウッツ大学(ポーランド)で開催されたEATLPへの出席と、平成29年12月にアムステルダム所在のIBFD、アムステル大学などの訪問によって、資料情報の収集を行った。また、2017年12月に英国他の欧州連合加盟国5カ国から米国連邦財務省他に対して発せられた警告については、警告書の写しを入手したので、今後その内容について詳細に分析する。また、欧州委員会や加盟国財務担当省の資料については、ネット上の情報のみならず、EATLPの研究者を通じて収集を進めている。 米国の税制改正については、共和党、大統領府、下院歳入委員会、上院財政委員会、といったキー・プレイヤーの資料が主としてネット上で公開されており、それらの動向を観察している。
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今後の研究の推進方策 |
第1年度は基礎的資料の収集と、現下の米国、欧州の税制改正の動向などをフォローし情報収集を行った。今後の研究の推進方策としては、それらの資料の分析を進めるとともに、その結果を、特に欧州税制関係者にインタビューすることで裏付け、従来とは異なるここ数年の欧米間の租税関係について方向性を分析することとしたい。
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