本年度は3年間の研究計画期間の最終年度にあたり、研究の取りまとめと学会報告等による成果発表を通じる研究成果の社会還元に力点を置いた活動を行った。 まず、6月13日から17日にかけてイタリア・ペスカーラ大学及びローマ・サピエンス大学で行われた国際シンポジウムにおいて日本からの報告者として、文化財保護と税制という観点から国家補助について日本の視点を論じた。我が国においては、WTOルール以外に国際的な国家補助規制の根拠となる法規範は存在しないと考えられるため、欧州基本条約上の国家補助との対比において税制と競争政策の交錯点から国際課税の枠組みを検討した。 次に、11月5日から8日にかけてオランダ・ティルブルフ大学租税法研究所で行われた国際シンポジウムにおいて、BEPSプロジェクトを下支えする国際的法令遵守保障プログラムの実務的問題点について日本の立場を研究発表した。我が国では、国際租税法といえば実体法的な国際課税の枠組みが論じられるにとどまり、その実務的観点から見た納税者の有効な法令遵守への誘導策という実務的方策についてはまったく議論されていない。本報告では、そのような我が国の状況の紹介も含めて、我が国がICAPを本格的に稼働させるための法的枠組みについて検討し、報告を行った。 これらの口頭研究発表以外に、本研究課題に関わる論説や判例評釈を執筆し公表した。また、タックス・ヘイブン対策税制についての実務家からの相談に応じ、本研究で得た知見を基にした所見を裁判所に提出し、裁判実務への貢献も試みた。
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