研究課題/領域番号 |
17K03353
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研究機関 | 静岡県立大学 |
研究代表者 |
小西 敦 静岡県立大学, 経営情報学部, 教授 (10431884)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 地方自治法 / 市の要件 / 市町村 / 人口 / 市町村合併 / 都道府県 / 国 |
研究実績の概要 |
本年度は、前年度に準備した現存市のデータに非現存市のデータを加え、市の要件規定の変遷と規定ごとに設置された個々の市制施行状況を分析・整理した。これにより、1889年の市制町村制施行から2018年10月現在までの約130年間における合計1,045の市制施行事例について、それぞれの市の市制施行時の市の要件規定とその内容を明らかにした。本年度までに得られた知見の主なものは、次のとおりである。 第一に、1,045件を人口要件で分類すると、2.5万で64、3万で686、4万で13、5万で101、人口要件無で181となっている。人口3万要件による市制施行が、全体の3分の2近くとなっている。現在の地方自治法の5万という人口要件は、1954年に定められ、その適用期間は、60年以上となっている。しかし、実際には、地方自治法の附則や合併特例法等による特例措置の適用を受けている事例が多く、人口5万要件による市制施行は、全体の1割弱にとどまっている。 第二に、人口3万要件による市制施行の市は、その後、法人格を変更することなく存続する率が、人口5万要件で市になったところに比べて、やや低い傾向にある。 第三に、市制施行を巡る国・都道府県・市町村の関係においては、市になろうとする当該町村以外では、都道府県が重要な存在になる傾向にあるといえる。なぜならば、市制施行の事務は法定受託事務でありながらも国からの運用実務上の関与は大きくない一方で、各都道府県が制定する市の要件を定める条例の中には詳細な要件を定めるものがあるからである。 各市の市制施行状況の一覧表を含む本年度までの研究成果を、2019年1月発行の『行政法研究』28号に「市の要件規定の意義 規定の変遷とその適用状況」として公表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
市の要件について、規定の変遷とその適用状況のデータを整理・分析し、論文にまとめ、公表することができた。 市の効果、すなわち、市と町村の違いについては、文献調査のほか、富谷市(2016年市制施行)と那珂川市(2018年市制施行)という近年市制を施行した地方公共団体を訪問調査した。両市からは、市制施行前後における事務の変化等について資料提供や教示をいただいた。以上の調査等により市の効果に関する基礎データをある程度集めることができた。一方で、市の効果については、市の要件に関する地方自治法の規定のような端的な規定がなく、多様な視点からの検討やさらなるデータ収集が必要であると考えている。 以上のことから、「おおむね順調に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、市の効果を、法制度面、財政面、実態面などできるだけ多様な視点から明らかにしたい。 研究方法としては、実定法やその解説書等の文献調査のほか、国や地方公共団体関係者からの聴取調査、地方財政の決算統計の分析などを予定している。 また、比較憲法学会から2019年10月の第31回学会における研究報告の機会を与えられたので、本研究で得られた我が国の市の要件と効果に関する知見を比較憲法学の視点から再検討し、本研究を憲法上の地方公共団体の意義の考察等にも発展させていきたい。 さらに、可能であれば、適用された市の要件規定の違いが当該市の存続等にどのような違いをもたらしているかを、計量的手法等で分析してみたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
市の要件に関する論文執筆にエフォートの多くを投入したため、市の効果に関するデータ・資料の収集のための現地調査(旅費の執行)及び得られた資料の整理・分析(人件費・謝金の執行)などの一部を行うことができなかった。これらを次年度に行うこととしたため、次年度使用額が生じることとなった。 次年度は、これらの次年度使用額を、上記の現地調査や資料の整理・分析のほか、比較憲法学の視点からの調査(旅費等を充当予定)などを行うために、使用する計画である。
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