研究課題/領域番号 |
17K03355
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研究機関 | 島根大学 |
研究代表者 |
黒澤 修一郎 島根大学, 法文学部, 准教授 (30615290)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 憲法 / 裁判 / 中絶 / アメリカ憲法 |
研究実績の概要 |
本研究は、アメリカ合衆国における中絶をめぐる憲法裁判を対象とし、そこにおいて裁判所が採用している行動戦略を考察することを目的とする。裁判所は、議会や大統領といった民主的政治部門や、あるいは一般世論との関係のなかで、その行動戦略をプラグマティックに選択していると考えられる。本研究の大きな目標は、かような司法の行動戦略を歴史的見地から検証し、さらに規範的な見地から理論化することである。 本研究の初年度である平成29年度は、アメリカ中絶裁判に関する重要文献の収集と読解に重きを置いた。とりわけ中絶裁判が下された政治的・社会的コンテクストに関する知見を得るために、歴史学および政治学に関連する文献を中心的に読み進めた。 当年度の研究成果として、黒澤修一郎「Roe判決とバックラッシュ・テーゼ(1)」島大法学61巻1・2号1-34頁(2017年)を挙げることができる。この論文は、1973年のRoe判決が政治的・社会的バックラッシュを引き起こし、ひいては中絶政治の分極化を招き入れてしまったという見解に対して、批判的検討を加えたものである。2回連載の前半部分である上記論文では、Roe判決以前の歴史を検討の対象とした。とりわけ同論文では、Roe判決がどのようなコンテクストのなかで下されたのかという点に関して、歴史学や政治学の知見を借りながら接近することを試みた。なお上記論文と関連して、2017年12月に関西憲法判例研究会(同志社大学)において研究報告を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度の目標であった重要文献の収集と読解に関しては、おおむね順調に進行している。とりわけ本研究は、法学のみならず、歴史学や政治学への隣接分野へも視野を広げることを通じて、憲法裁判に関してより複眼的な視座から接近することを狙いとしている。それゆえ先行研究のフォローアップや、あるいは関連分野の研究動向の把握には、かなりの時間を要すると言わなければならない。しかし平成29年度に重要文献の収集と読解を行ったことを通じて、研究の基礎となる方法論視座の形成を進展させることができた。この点はすでに発表した研究成果にも反映されていると考えられる。もとよりまだまだ進めるべき課題は残っているが、しかし研究初年度としては順調に進展していると評価している。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策として、次の3点を挙げたい。 第1に、連載途中の論文「Roe判決とバックラッシュ・テーゼ」の公表を平成30年度中に行うことである。アメリカ中絶裁判の重要判例の一つであるRoe判決について、複眼的な視座から再考察を加えることは、本研究の進展にとって重要な意味を有すると考えられる。 第2に、1990年代以降の中絶裁判の動向に関して、歴史的見地および規範的見地の両面から、考察を進める必要がある。 第3に、法学のみならず、歴史学や政治学の研究動向に関する知見を得るために、隣接領域の関連文献の読解を引き続き進める必要がある。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成29年度は調査のためのアメリカ合衆国への出張を予定していたが、都合により実施することができなかった。使用計画としては、平成29年度に予定していた内容の調査を、平成30年度に補完的な形で実施するために使用したいと考えている。
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