本研究の全体構想は、アメリカを対象国として、中絶規制が争われた憲法訴訟における裁判所の行動戦略について、歴史的および理論的な見地から調査と検討を行うことである。 こうした構想のもと、本研究は、さまざまなアクター(裁判所、連邦議会、大統領、政党、州政府、社会運動団体、世論など)の行動の交差に目を向けながら、アメリカにおける中絶に関する憲法判例が、どのような政治的・社会的文脈のなかで形成されてきたのかについて考察を進めた。アプローチの方法としては、判例研究を典型とする法学的方法に基づき調査を進めるとともに、政治学などの隣接分野の研究動向にも目を向けながら、学説における最新の議論動向を調査した。このような調査を通じて、裁判所がどのような政治的・社会的文脈のなかでその行動戦略を選択しているのか、および判例が政治および社会に対してどのような影響を与えてきたのかを解明することを試みた。 本研究の主な実績としては、次の3点を挙げることができる。第1に、アメリカにおける中絶をめぐる法と政治の歴史について、学際的な視点から研究を進めることができた。第2に、アメリカ中絶裁判の最新の動向について調査をすることができた。そして、第3に、中絶という論争的な争点に関する司法審査のあり方について考察を進めていくなかで、現在のアメリカ政治の特徴であるイデオロギー的分極化状況を前提とした司法審査理論を考察するための知見を得ることができた。
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