本研究は、[1]議会の立法及び政府統制に憲法上の妥当性及び規範適合性の観点からの精査機能を組み込むこと、並びに、[2]議会過程において議会と司法府が協働することに関わる制度実践を実証的に解明し、これらの制度実践の歴史的文脈と理論的基礎を検討してきた。 今年度は第一に、全国憲法研究会の報告において、ブレグジットをめぐる議会・政府・裁判所の相互作用を分析することを通じて、ブレグジットに係る国王大権行使、すなわち「統治」に対する政治的統制と法的統制との交錯を考察し、当該報告に基づく論稿を執筆、公表した。これにより、議会過程において政府活動の規範適合性を統制する意義と限界、並びに、議会の立法及び政府統制と裁判所の司法審査との連関と対抗を具体的な動態過程に即して検討し、本研究を深化できた。第二に、昨年度言及した、立法及び政府統制を実効化する観点を含めて、イギリス議会において時間という資源の活用を図る制度及び議事手続を考察する論稿が公表された。第三に、地方議会における投票価値の平等に係る判例法理を検討する論稿を執筆、公表した。当該論稿は、地方議会議員の選挙制度を法令(国の立法)と違憲審査との間でいかなるバランスを以て規律すべきかという問題意識が含まれており、本研究と通底する関連業績である。第四に、イギリス及びオーストラリアにおける制度実践との比較研究を取りまとめ、議会の立法及び政府統制を再生するための制度基盤及び機能条件を解明する理論研究を進めた。 これまでの研究成果により、今日の議会における立法及び政府統制機能の再生にとって、規範適合性を精査するメカニズムも議会内過程に組み込み、議院が裁判所の活動と協調する契機となる制度基盤を構築することの重要性を明らかにした。これらの知見は、日本の国会両議院の改革提言を含めて今後の議論に資する学術的・社会的意義を有すると考えられる。
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