研究課題/領域番号 |
17K03359
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
原島 良成 熊本大学, 大学院人文社会科学研究部(法), 准教授 (90433680)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 障害補償費 / 公健法 / 水俣病 / 補償協定 |
研究実績の概要 |
原島良成「公健法25条1項に基づく障害補償費の民事損害賠償金代替性」新・判例解説Watch22号(2018年)275-278頁では、公健法に基づく補償給付の法的性格付け(他の賠償・補償制度との制度的棲み分けを念頭に)を探る研究の一環として、最2小判平成29・9・8民集71巻7号1021頁の分析に取り組んだ。同判決は、公健法による障害補償費が民事損害賠償金に代替する性質を有し、すでに賠償による損害填補を受けた者は障害補償費を受給できないとするものである。 この判決の是非に関連しては、水俣病原因企業と被害者の間の補償協定による損害填補と民事損害賠償の関係をめぐって、また平成16年のいわゆる水俣病関西訴訟最判(とその下級審)を素材として議論があったところで、本科研費研究が最終目標とする総合的な公害救済法制を構想する上で、「誰が、いつ、どの範囲で補償すべきか」という問題が、被害発生と立法から40年以上を経てなお深刻な形で立ち現れることがわかる。 同稿(成果)は、形式的な分析対象こそ平成29年最判に限定するものであるが、この論点に関係する二次文献と判例を広く視野に収めており、本科研費研究で平成29年度の作業として計画していた公健法の運用過程調査の成果として位置づけられる。具体的には、公健法立法時点で補償の性格付けが問題となることが既に認識されていたものの、被害者団体の活動や甚だしい認定遅延の中で複数の補償システムが走り出してしまい、平成29年最判のような、公健法13条1項(二重救済回避)の解釈問題が生じてしまったという見立てが示され、同判決が「公健法があるせいで被害者間に偶然的で不合理な格差が生じて」いる点に目を向けていないことの問題性が指摘される。 本稿は2018年2月にウェブ上で公表され、同4月に出版された雑誌に収録された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
公健法に関する先行研究を調査分析しているところに、ちょうど公健法25条1項の障害補償費の法的性質に関する重要な最高裁判決が示されたため、立法当時の資料の調査は後回しにして現在の問題状況を整理することを優先した。その結果、立法史の調査分析結果を単独で出版するという予定を修正し、水俣病に絞って公健法の運用経緯と法的問題の状況を俯瞰する研究論文の中にそれを埋め込み、平成30年度中に脱稿することになる。このようにイレギュラーへの対処は必要となったが、平成29年度の調査作業としてはおおむね計画どおり進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
当初計画どおりに進めていく予定であるが、出版(水俣病救済法制を俯瞰する研究)はともかく調査・情報収集の点では、平成30年5月にまとまった時間が取れたので、当初計画では平成31年度に計画していた米国行政法の調査を優先させ、国内での研究協力者との対話をその分後に回したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
人件費は、予定していた人材が司法修習生となってしまい、ほかに適切な人材が見つからず(他の研究者と競合してしまった)、収集した資料は未整理状態である。また、作業用PCを購入する予定であったが、見積を取ったところ非常に高額であったため、再検討が必要になった。すでに研究室のPCは調子が悪いので、原稿は私用PCで入力している。 今年度は早期にPC環境を整えるため、前年度残額を使用する予定である。人件費については、引き続き法的素養を備えた人材の勧誘に努める。
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