研究課題/領域番号 |
17K03359
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
原島 良成 熊本大学, 熊本創生推進機構, 准教授 (90433680)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 公衆衛生 / 地方分権 / 行政意思決定過程 / 理由説明 / 被爆者援護法 / 現代的公害 |
研究実績の概要 |
本研究の中核に迫る作業の成果として、原島良成「災害救助の分権論」西埜章先生・中川義朗先生・海老澤俊郎先生喜寿記念『行政手続・行政救済法の展開』(信山社、2019年)471-498頁を公表した。公衆衛生行政とりわけ被害者救済局面での自治体の役割を検証し、憲法25条2項に根差した役割分担の在り方を論じたものである。公害被害救済法制の骨格を分析する上で、公衆衛生行政の分権体制という相似要素を参照することを意図している。 また、派生的な成果として、行政の意思決定過程を整理し「理由」の位置づけを探った、原島良成「行政文書作成義務について」上智法学論集62巻3=4号(2019年)211-223頁は、水俣病判定において「事実」と「規範的事実」の区別が語られてきたことに示唆を受けて執筆された。行政上の救済法制を構想する上では、例えば水俣病判定に係る理由説明の形式を問題にしなければならない。本研究の開始当初予定された成果ではないが、行政的救済と裁判的救済の間の重要な差異を認識することができた。 ペーパーにはしていないが、行政判例研究会(2019年4月)で被爆者援護法に基づく被爆者認定の裁判例(について報告を行い、指導を受けた。2020年2月に上級審の判断が示されたため、研究成果は2020年度に執筆する総合的論文の中に組み込むこととした。 その他、環境法政策に関連して、原島良成「震災遺構の公費解体に先立つ調査検討義務」(盛岡地判平成31・1・17評釈)新・判例解説Watch 25号(2019年)279-282を公表した。公害の意義を環境基本法の定義から離れて現代的に再解釈した場合、震災遺構解体のような環境損害行為を訴訟で争う方途は、本研究の関心対象となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
公健法そのものの研究をなお残しているものの、比較の視点から、被爆者援護法と原賠法の調査を行い、成果をまとめつつある(2020年度中に成果公表予定)。被爆者援護法に関しては、分析していた裁判の上級審判決が2020年2月に示されたため、個別の成果としての公表ではなく、2020年度に執筆する総合論文の一部として取り上げることとした。 また、石綿被害に係る労働保険審査会の実情については、研究協力者による重要な成果がまとめられていたところであり(中嶋士元也『労災補償の行政審査と司法審査』2020年5月出版)、調査の順序を入れ替えた部分はあるが、全体としてはおおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
原賠法に関連する裁判の動きを検証した上で、被爆者援護法と労災補償法を視野に入れた総合的な研究論文を執筆する。前者は2020年度中に(脱稿済み)、後者は2020年度末から2021年度初めに公表するよう準備する。 外出自粛等の影響により出張調査計画が一部遅れている。これは、公健法立法の一次資料調査を阻害する要因ではある。先行きが不透明であるものの、感染症の状況を見ながら、場合によっては最終的な論文の公表を2021年度にずらすことで、入念にファクトチェックすることが可能であると考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
資料整理のアルバイト適任者が見つからず文房具やキャビネット等の物品購入により資料を保存しているところ、ファイリング作業が少し遅れているため6千円ほど残額が生じた。2020年度内に十分解消するよう、必要な文房具等を購入し、整理を進める。
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