感染症蔓延により国内外の資料収集に難が生じ、研究の一部分として当初予定していた、原爆症・アスベスト・原子力被害等の救済法制度との比較検証は、追加的研究課題として2022年度に継続して取り組むこととした。この軌道修正の一環として、2021年度は、基礎理論(救済手続における「理由」の取扱い)の考察を深め、原島良成「処分理由の追加・差替え」行政法研究40号(信山社)195頁~207頁で、判例分析に絡めて取消訴訟の存在意義(半面で行政的救済手続の存在意義)を探った。対応する実務上の課題にも調査を拡げ、その成果は、行政不服審査制度の運用面を分析する、原島良成「行政不服審査会の広域共同設置について―熊本広域行政不服審査会の例―」一般財団法人地方自治研究機構『自治体における行政不服審査制度の運用と自治体法務の課題に関する調査研究』95頁~113頁にも反映している。 基礎理論研究を先行させた結果、公害救済に関する具体的な制度論の成果公表は2022年4月にずれ込んだ。隣接分野の救済制度に関して、原島良成「原子力規制委員会の原子炉設置変更許可が取り消された事例(大阪地裁令和2年12月4日判決)」ジュリスト臨時増刊『令和3年度重要判例解説』(有斐閣)48頁~49頁を公表。アスベスト救済に関しては原稿を準備中である。 本研究を総括する論文の一つとして、原島良成「公衆衛生行政の『災害モード』化 ―環境法ドクトリンの展開から―」危機管理防災研究28号(2022年)9~26頁を公表した。当初の研究計画では公健法そのものの制度的欠陥を補正する論文を構想していたが、COVID-19の危機的状況にあって、水俣病救済であらわになった公健法の問題点を公衆衛生危機への予防的対応に活かす応用研究を優先した結果である。「予防」と「救済」を一連の手続として捉える制度論をさらに予定している。
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