本研究の最終年度である2020年度は、日本中がコロナ感染症対策の影響を受ける中で、映画を中心とした芸術文化をめぐる状況も大きな影響を受けた。本研究も、学会の要請などに応じて、文化政策分野における公的支援のあり方をこの観点から考察・議論した。 他方、2019年度に引き続き、日本国内では映画表現を含む文化芸術全般について、法的考察を要する社会問題が起きた。本研究では、映画表現における名誉毀損についてアメリカを参考にしながら整理した。具体的成果としては、歴史解釈論争を扱った映画や学術研究に対して「捏造」などの不正行為を指す指弾発言を行うことが名誉毀損に当たるかについて、論説を公表した。 また2020年度は2019年度に引き続き、「しんゆり映画祭中止問題」などと通じる「表現の場」をめぐる社会問題が起き、成果としては、この関心に応える講演・論文が多数となった。とくに法学系専門誌にとどまらず、教育学分野の学会誌、美術専門家のための講座講演など、学際的な場での成果公開が多数となった。 アメリカにおける映画表現と法の関係について、検閲から芸術助成までを考察対象にするという本課題本来の関心からすると、成果公開のほうは、得た知識を国内問題の考察へと応用する場面が多くなったが、応用の前提として得た知識は、今後の出版の中で、より直接的な形で生かしていく。『映画で学ぶ憲法2』(2021年6月)出版がその一つである。また、文化芸術政策・行政と法との関係について、学生および文化政策・文化行政従事者に向けて解説する図書を出版することが決定している(弘文堂2022年出版予定。原稿・刊行時期ともに確定に至っていないため、今回の成果報告書には未記載)。 なお、2019年度末(2020年3月)に本課題の成果公開の一環として行った無観客シンポジウムの動画記録は、2020年度オンライン授業の内容として学生に提供している。
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