研究課題/領域番号 |
17K03368
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
渡辺 徹也 早稲田大学, 法学学術院, 教授 (10273393)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | コーポレート・ガバナンス / インセンティブ報酬 / ストック・オプション / リストリクテッド・ストック / 新株予約権 / 譲渡制限付株式 / 法人税法 |
研究実績の概要 |
主としてインセンティブ報酬とコーポレート・ガバナンスについて検討を行った。法人税法34条1項2号の給与には、いわゆるリストリクテッド・ストックとしての譲渡制限付株式(同法54条1項)やストック・オプションとしての譲渡制限付新株予約権(同法54条の2)が含まれるが、これらについて事前確定の届出は不要とされている(同法34条1項2号ロ、ハ)。このルールは、平成28年度および29年度改正によって導入された。 これは、コーポレート・ガバナンスの考え方を取り入れ、インセンティブ報酬としてのリストリクテッド・ストックやストック・オプションの使い勝手を法人税法上も考慮した改正ということになる。なお、上記譲渡制限付株式や譲渡制限付新株予約権の損金算入ルールについては、同法54条および54条の2においてそれぞれ規定されている。 平成29年度改正において、業績連動給与に関する指標の範囲が拡大されたこと等も、同じくコーポレート・ガバナンス改革の観点からの改正と位置づけられいている。 ここでのキーポイントは、法人税法に「役員の役割とは企業価値を高めることである」という視点が入ったことである。これは、企業価値を高めることへの対価としての役員給与という報酬形態を株主が認めているのであれば、法人税法でも損金算入を認めてよいという考え方である。 一方で、利益処分的な分配は(利益を株主間で山分けする配当と同じであるから)、伝統的に損金算入を認めることはできないとされてきた。そのような伝統的な考え方が、株主の目線において「企業価値を高める」というコーポレート・ガバナンスの観点から緩和されてきたということである。これは法人税法の大きな変化を示す改正と捉えることができるが、「利益処分的だから損金不算入」という伝統的な発想が根強く残っている(法改正によって一部が緩和されたに過ぎない)ことを示しているともいえる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ストック・オプションとリストリクテッド・ストックに関する規定と判例の変遷を確認することができた。具体的には、平成28年度改正で新たに創設された法人税法54条と同54条の2の比較、所得税法36条と同施行令84条との整合性、ストック・オプションに関する前述した最判平成平成17年1月25日とリストリクテッド・ストックに関する東京地判平成17年12月16日(訟月53巻3号871頁)との関係を整理することを行った。 その前提作業として、コーポレート・ガバナンス・コードについて、租税法と関係する内容、同コードが作成されるまでの経緯、とりわけ「コーポレート・ガバナンス・システムの在り方に関する研究会」と「日本再興戦略」の内容を確認した。また、そこでいう「攻めのガバナンス」に、ストック・オプションやリストリクテッド・ストックに発行が含まれていると考えられるが、租税法における優遇的扱いを意味しているのではないことがわかった。 アメリカ法との比較研究について、内国歳入法典83条および財務省規則1.83と同種の規定を日本法が採用した場合、ストック・オプションやリストリクテッド・ストックについて、どのような課税結果が導かれるかについても、暫定的な結論には達した。しかし、この問題については、新規事業の立ち上げ、具体的には、ベンチャー企業の起業についてまでを含めた考察が必要であることが判明したので、それについて、引き続き検討を行うことにした。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、「現在までの進捗状況」に述べた通り、ベンチャー企業の起業とリストリクテッド・ストック等に対する課税問題についてアメリカ法との比較研究を行う。 わが国において、いわゆるベンチャー企業の起業というのは、アメリカに比してまだ少ない 。現行税制には、起業応援税制(エンジェル税制)というものがあり(租特37条の13、同37条の13の2)、ベンチャー企業へ投資を行った個人投資家に対して、投資時点および株式等売却時点の双方で、税制上の優遇を与えているが、十分に利用されているとは言い難い状況にある 。また、エンジェル税制が十分に機能しているかどうかを別にしても、この制度は、本法ではなく租税特別措置法上のルールであり、かつ既存の税制が起業に悪影響を与えていることを前提とした優遇措置でもない 。 現在の問題意識は、所得税法や法人税法といった租税法の原則的な扱いが本当にベンチャー企業のスタートアップを阻害しているのか、仮に阻害しているのであればどのように改善すべきか、というところにある。 創業後業績が好調なベンチャー企業が 、さらに成長を目指すためには、ベンチャー・キャピタル(VC)など外部からの比較的規模の大きな投資が必要となる 。この点に関して、アメリカ・シリコンバレーのハイテク・ベンチャー企業がVCから資金調達を行う場合は、優先株式を用いる方法が主流だといわれている 。一方で、シリコンバレー型のVC投資が日本において行われない理由の一つとして、税制の存在を指摘する見解 がある。 そこで、アメリカと同じような資金調達を日本のベンチャー企業が行った場合、VCによる投資が行われた段階における課税の可否について検討する。具体的には、VCが引き受ける優先株式と、企業家である創業者が引き受けた譲渡制限付普通株式との価額差を根拠として創業者等が課税される可能性に着目し、事例を設定して考察する。
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次年度使用額が生じた理由 |
外国文献のうち発注していたが入手できなかったもの、公刊が遅れたものがあり、予算執行が遅れた。次年度はこれらの購入を行う予定である。
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