研究課題/領域番号 |
17K03378
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研究機関 | 津山工業高等専門学校 |
研究代表者 |
大田 肇 津山工業高等専門学校, 総合理工学科, 教授 (30203798)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 軍事法 / 戦争開始権限 / チルコット報告書 / 生命に対する権利 |
研究実績の概要 |
メイ首相は、2018年4月13日の米・英・仏3国によるシリア攻撃に関し、事前の議会承認を得ずにイギリス軍を参戦させた。この海外での武力攻撃は戦争権限慣習(War Power Convention)に反するとの批判が、野党および憲法研究者からなされた。この経緯およびその論点を整理したのが、拙稿「議会の戦争権限への関与についてのイギリスでの議論の検討」(2018年 津山工業高等専門学校紀要60号)である。 近年のイギリスの憲法研究において、従来あまり触れられることのなかった軍事分野に関心が集まり始め、その書籍の一例が「PARLIAMENT’S SECRET WAR」であるが、この著者の1人であるHayley Hooper女史(オックスフォード大学)には、2018年9月のリバプール大学での「UK & Japan Constitutional Law Seminar 2018」における彼女の報告に関する質問において意見交換をおこなった。この成果は、2018年10月、明治大学でのイギリス憲法研究会において報告された(題名「イギリスにおける戦争開始への議会関与の現状と問題点」)。 2019年3月、再びリバプール大学を訪れ、戦争権限慣習を研究しているBennett Mark氏と意見交換をおこなった。 イギリス研究者との意見交換から得たものが、イギリスでは軍事問題に関し司法の関与を避けようとする傾向が強いということである。例えば、Hayley Hooper女史は、議会の関与およびその前提となる情報開示によって、政府の戦争開始にチェックを入れようとし、裁判所の関与はほとんど考慮しない。確かに、これもチルコット報告書での指摘への応答となり得うるが、現状はメイ首相のような「暴挙」を止めることに成功していない。日本における憲法規範、それにもとづく司法判断の重みを再認識する機会となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2018年は、いわゆるBrexit(EUからの離脱)の期限とされた2019年3月29日に向けて、イギリス政治およびそれに深く関わるイギリス憲法学がこのBrexit問題への対応に没頭させられた1年であった。そのため、議会においては、戦争開始権限に関する検討は進展せず、研究者間での議論の検討のレベルに留まった。
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今後の研究の推進方策 |
戦争権限慣習(War Power Convention)の問題は、近年、イギリスの若手憲法研究者が関心も持ち始めた軍事分野の中でも、特に注目を集めているテーマである。このたびのBrexitに関する政府と議会とやり取りの中で、基本的に政府の専権事項とされてきた「外交」に、議会が大きく関与するという状況が生まれ(その関与が問題解決に寄与したとは言えないにしても)、議会のこうした「活性化」が今後の戦争権限慣習にどのような影響を及ぼすのか、研究を進めたい。また、2019年に、イラク戦争・アフガン戦争等において「戦争犯罪」を犯したとされるイギリス兵を不起訴とするあるいは恩赦を与えるようとの国防省の計画が議論され始めており、この計画の検討・分析は、戦場の地域住民の「生命に対する権利」保障の問題を、従来とは異なる視点から研究するものであり、「軍事的価値」と「市民的価値」との関係を探るものとなりうる。
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次年度使用額が生じた理由 |
注文していた外国書籍の出版が遅れ、その分の未使用となった。
次年度に購入する予定である。
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