イラク戦争に関するチルコット委員会が設置されてから約7年後の2016年6月6日、やっとその報告書(The Report of the Iraq Inquiry)が公表された。今回の研究課題は、この報告書が、海外で武力攻撃をおこなう際のイギリスの政治のあり方にどのような影響を及ぼしてきたか、を調べることであるが、一昨年度までは国王大権にもとづく戦争開始権限への批判及び議会の関与を巡る議論を調べながら、それらへのチルコット報告書の影響を調べてきた。昨年度は、報告書で指摘された、兵士たちが現地で遭遇した過酷な活動環境及びそこから生じた「生命に対する権利」侵害、戦争犯罪、それらを犯した兵士の起訴への対応として、政府が提出したOverseas Operations(Service Personnel and Veterans) Billに注目したが、この法案と報告書の直接的・具体的なつながりを見出すことは出来なかった。今年度は海外派兵決定に至る政府内での検討プロセスに関する報告書の批判が、その後の政策決定にどのような影響を及ぼしたのかを調べた。ブレア首相の「大統領」型の政治姿勢を抑止できなかった内閣の「連帯責任」の形骸化を確認し、実施された克服の方策を検証しようとした。
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