研究課題/領域番号 |
17K03379
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
嶋 拓哉 北海道大学, 法学研究科, 教授 (80377613)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 国際民事手続法 / 専属裁判管轄 / ブリュッセルIbis規則 / 知的財産権 / 不動産帰属問題 |
研究実績の概要 |
本研究は,国際的な専属管轄に関する包括的研究である。本年度(2020年度)は,第一に,過去2年間の研究成果を踏まえて,欧州連合ブリュッセルIbis規則の専属管轄規定及びそれに関する学説・裁判例について私見を得て,成果公表を行った。 第二に,前年度に引続き,「外国の登記・登録」にわが国が裁判管轄権を行使してはいけないのかという論点について検討を行い,私見を得て成果を公表した。わが国の通説的見解は,「法定専属管轄規定の双方化」を根拠として,外国の登記・登録についてわが国裁判所が裁判管轄権を行使すべきでないとするが,比較法的視点等を導入し検討した結果,こうした通説的見解に批判的な立場を正当と判断するに至った。通説的見解を維持すれば特に知財ビジネスにおいて悪影響が生じ得るが,こうした事態を回避する方策として,「法定専属管轄規定の双方化」を否定することが正面から検討されるべきである。なお,成果公表の中で,現行法制に対する立法的手当の必要性にも言及した。 第三に,現行のわが国法制では内国不動産の帰属問題は法定専属管轄事項とされていないが,これを改めるべきではないかという立法論的問題についても検討を行っている。比較法的には,ブリュッセルIbis規則をはじめ内国不動産の帰属問題を法定専属管轄事項とする法制が大勢を占める。加えて,わが国には外国人土地法が戦前より施行されているが,これはわが国の国際的強行法規であると考えられることから,その適用を確保するためにも,内国不動産の帰属問題をわが国の法定専属管轄事項に含めるべく,所要の法改正を講じることが適切であることを提言する。来年度に研究会報告を経て,成果公表を行う予定である。 第四に,本研究の周辺的研究として,国際裁判管轄・準拠法に関するその他論点ついても検討を行い,成果を公表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
第一に,過去2年間の研究を踏まえて,欧州連合ブリュッセルIbis規則の法定専属管轄を対象とする研究を実施し,本年度にその成果を公表した(北大法学論集71巻1号)。 第二に,「外国の登記・登録」にわが国が裁判管轄権を行使してはいけないのかという問題については,特に登録知財権における専属管轄規定の取扱いを巡って研究者や実務者の間で様々な主張がなされていることを踏まえて,通説的見解に批判的な立場から検討を実施した。この問題についても,本年度に成果公表を行った(北大法学論集71巻5号)。 第三に,内国不動産の帰属問題を法定専属管轄事項に含めるべきかという立法論的問題については,既に欧州連合ブリュッセルIbis規則をはじめとして比較法的検討を行ったほか,外国人土地法がわが国の国際的強行法規であることについても確認作業を終えている。現在,こうした実績を踏まえて,私見を取り纏めるべく原稿を執筆中であり,来年度(2021年度)中の完成に向けて,執筆作業に一定の目途を着けることが可能な段階にある。もっとも,当初計画では,本年度中に外国人による北海道の水源地や自衛隊基地の取得状況等について実地調査を行う予定であったが,昨今のCOVID-19の感染拡大を受けて,道内外への出張を自粛せざるを得ない状況が続いている。事態の好転を待って,来年度中には,当初計画を縮小する形であっても,何らかの形で実地調査を行いたいと考えている。 以上の事実を踏まえると,COVID-19の感染拡大を受けて,実地調査が延期になったり,あるいは研究会が延期されるなどして成果公表に向けたプロセスに遅延が見受けられるものの,かかる外部要因を除けば,本研究は概ね順調に進展しているものと評価する。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の推進のための方策は,わが国のみならず海外(特に欧州)を含めて,従前の裁判例および学説を幅広く渉猟し,かつこれらの基礎資料を丹念に精査することに尽きる。本研究課題に関する研究蓄積は乏しいが,しかしながら,近時は国際的な知的財産権紛争が増加し注目を集める中で,本研究の対象範囲及び周辺に位置する事案が次第に増加する傾向にある。またそれに伴い関連する研究成果も徐々に出現していることから,今後も引き続き,これら資料の検討作業を着実に進めていく。来年度(2021年度)は本研究の最終年度であり,これまでの研究成果の積極的な公表に重点を置き,学会や研究会での報告と原稿の作成を通じて,本研究における成果の全体総括に繋げたいと考えている。 今後の研究推進について具体的に記述すると,来年度は,内国不動産の帰属問題と専属管轄の関係について立法論的な視点から検討し,その成果公表に繋げる。わが国民訴法3条の5では,内国不動産の物権・帰属に関する訴訟が専属管轄の対象事項から除外されているが,これは比較法的に珍しいほか,当該条文の制定以前におけるわが国の通説的見解とも異なる規定内容である。ついては,当該条文の制定過程で,如何なる議論に基づいて内国不動産の物権・帰属に関する訴訟が専属管轄の対象から除外されたのかについて事実関係を確認したうえで,立法論的な視点からその妥当性を検証したい。 また,2021年6月には,本研究を題目として国際私法学会で個別報告を行う予定である。この個別報告では,登録知財権の問題を中心的題目に据えつつも,内国不動産の帰属問題と法定専属管轄の関係という論点にも言及しながら,本研究課題に関する成果の概要を取り纏める形で包括的な発表を行いたいと考えている。加えて,その質疑等を通じて他の研究者の知見を得たうえで,更に研究を進め最終的な成果公表に繋げるつもりである。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初計画では,外国人非居住者が北海道の水源地や自衛隊基地周辺の不動産を取得している現状を把握するために,道内外に出張し実地調査を行うことを予定していたが,COVID-19の感染拡大を受けて,これら実地調査をことごとく延期せざるを得ないこととなった。そのため,当初計画では本年度(2020年度)を本研究の最終年度とする予定であったが,これを一年延長し,来年度(2021年度)を最終年度とすることとした。 来年度は,COVID-19の感染状況を見極めながら,可能であれば,延期している上記実地調査を行うこととし,次年度使用額はその旅費等に充当させて頂く予定である。なお,仮にCOVID-19の感染拡大等によってこれら実地調査の実施が引続き困難である場合には,本研究に関連する書籍等を購入し,本研究の推進に資するべく使用させて頂きたいと考えている。
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