研究期間全体を通じて,次の4点が確認できた。(1)国際的な法定専属管轄を規定した民訴法3条の5を双方化し同条の連結点が外国に所在する場合には日本の国際裁判管轄を否定するのが通説的見解であるが,こうした見解は外国の主権を真に尊重するものではなく,また管轄の消極的抵触により原告の司法救済権を不当に侵害する惧れすらあること。(2)当事者間で同一発明に対応する複数国の知財権を一括して譲渡する場合には,これら複数の知財権の登録を巡る法的紛争を一括して解決すべきとの要請が強いと思われるほか,外国知財権の譲渡契約の当事者がともに日本居住者や日本企業である場合には,当事者間では日本の裁判所で法的紛争を解決したいとする要請が強いと思われるが,上記(1)の通説的見解はこうした当事者の要請に反し,その予見可能性を損なう惧れがあること。(3)民訴法3条の5では内国不動産の帰属を巡る訴えが国際的な法定専属管轄事項とされていないが,日本では外国人による内国不動産の取得・保有を制限する外国人法制(外国人土地法)が存在しており,同法制を確実に適用するためにも,立法論としては,民訴法3条の5を改正し,内国不動産の帰属を巡る訴えを国際的な法定専属管轄事項に含めるべきこと。(4)以上の(1)~(3)は,欧州連合の国際裁判管轄規定(ブリュッセルIbis規則)やドイツにおける解釈論を参照した結果,比較法的にも正当性を以て主張され得ること。 このうち,最終年度では,上記(3)の問題に焦点を当てて研究を行い,その成果を論文に纏めて公表した。その論文の骨子は,①民訴法3条の5を改正し,内国不動産の帰属を巡る訴えを国際的な法定専属管轄事項にすべきこと,②外国人法制として外国人土地法が既に存在するが,政令等を整備することによりその実効性を確保すべきこと,の2点である。
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