本研究は、国際社会の関心事である重大犯罪を行った個人の刑事責任を追及する際、適正手続を保障しながら、同時に国際刑事司法制度を効率的に運営するための国際・国内裁判のあり方について、国際刑事司法機関検察局の訴追戦略と国家の捜査・訴追義務の研究によって明らかにしていくことを目標としている。本研究は、国際刑事司法の効率化に対する基礎的研究を行うため、次の4点を研究項目として設定した。①国際刑事司法の効率性評価基準と国際刑事司法の効率化の意義に関する研究、②国際刑事法、国際人権法上の国家の捜査・訴追義務に関する解釈論の整理、③国際刑事司法機関の検察局の訴追戦略と国家の捜査・訴追義務の関係性、④国際刑事司法制度の実効性と正統性の調和的実現のための効率的制度設計の基礎的研究。
当初の研究計画に照らしてやや変則的となったけれども、2020年度中、欧州人権裁判所によるこの問題の捉え方を改めて整理する機会を得た。具体的には、上記②に関して、欧州人権条約上の生命に対する権利、拷問の禁止の侵害行為に対する国家の捜査・訴追義務と、それら行為に対する刑事手続を不可能とする効果を持つ時効、アムネスティとの関係性について研究を一層進め、研究会報告と原稿執筆を行った。そして、2020年度は最終年度に当たることから、③と④の項目に関して集中的に資料収集と論点整理をするよう努めた。本研究の総括となる③④に関する成果は、2020年5月21日から22日にパラツキー大学オロモウツで開催予定となっていた「国際人道法の発展と執行に対する国際刑事裁判所への貢献」に関する国際会議で報告の機会を得、その後、この会議がオンライン形式で開催されることになり2021年2月12日に英語で一定の研究成果を報告することができた。この会議での報告を集めた書籍が計画されているので、2021年6月中の原稿提出を通じ、本研究成果をまとめ上げる。
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