研究課題
本研究課題は,少子高齢化が進む中で,各国と比較をしながら,日本における政治・経済・社会状況を踏まえて,戦略的にどのような移民政策を取ることが望ましく,どのような法制度を整備することが望まれるかという観点から検討することを目的としている。本年度は研究の立ち上げのため,研究分担者と密接に連携しながら具体的に計画を立てて共同研究を進めた。具体的には,まず第一に移民政策の基本的な内外の文献を渉猟し,米国,カナダ,オーストラリアのほか,ドイツ,フランス,イギリス,オランダ,ベルギー,スウェーデンなどの移民制度の概要とその目的,歴史的発展の経緯,直面している課題について詳細に検討した。第二に,政策立案のための基礎として政治哲学及び経済学,文化人類学,そして国際法学の観点から多角的に移民をめぐる課題について検討した。特に研究代表者は,従来から国際家族法における個人のアイデンティティーの問題を取り上げる中で,移民の受入社会への社会的統合と本国の文化的・伝統的背景の相剋と調整のあり方について検討した実績があり,本研究課題の遂行に当たってはハーバーマスやテイラー,センなどの議論を取り入れながら検討対象をさらに広げ,各国の発展状況を踏まえて情報を新しくしつつ研究を深めるとともに,研究分担者にも情報提供を行い,公法の観点も取り込んで充実した共同研究を進めた。研究分担者は,社会学及び文化人類学の観点からケア目的の外国人労働者の受入体制のあり方と移民政策について研究を積み重ねてきた実績があり,本研究の遂行上も法学とは異なった観点から助言を頂戴しながら,相互に大変意義のある共同研究を行うことができた。本年度の後半では,日本の現状について移民政策とその制度設計,現政権が検討中の移民受入体制についても検討を進め,日本の国籍法や国際家族法を含めて,様々な角度から法制度に関する充実した検討も行うことができた。
2: おおむね順調に進展している
本研究は,移民政策について多角的な検討を進めるため,研究代表者が法学の観点から移民をめぐる国際家族法及び公法等に関する諸問題について欧米諸国との比較法を踏まえて検討するとともに,研究分担者が社会学及び文化人類学の観点からアジア諸国の移民政策を中心に比較検討を進めた。研究代表者は,ドイツに渡航して文献収集を行い,移民政策及び国際家族法の専門家とコンタクトを取って意見交換を行い,現在のムスリム移民の流入によってヨーロッパ各国がEU法及び各国公法上どのような課題に直面しているか,また私法上も国際家族関係の規律においてどのように対応しているか(特にムスリムが本国で行う一夫多妻婚や一方的宣言によるタラ―ク離婚のヨーロッパでの承認可能性など)などについて研究を進めた。マックスプランク研究所には,イスラーム法の専門家もおり,大変有意義であったほか,研究代表者は複数のセミナーやシンポジウムで報告する機会もあり,参加者と有益な意見交換を行うことができた。また,研究分担者も複数の会合に参加し,論稿として成果を公表してきている。本務校の業務との関係で,研究代表者と研究分担者は,当初予定していたよりも直接意見交換を行う機会が少なかったが,共同研究の遂行に支障が生ずるものではなく,相互に密接に連絡を取り合って円滑に共同研究を遂行することができた。本年度以降は,研究代表者及び研究分担者ともに移民政策学会に所属しているため,学会の場を活用して共同研究を進めることを企図しているほか,京都大学及びウィーン大学との学術交流においても移民政策を取り上げ,研究代表者が積極的に関与することになっており,少しずつ検討対象を広げる形で研究を遂行する所存である。
本研究課題の今後の進め方として,研究代表者は,昨年度の研究成果を踏まえて,さらに米国,ドイツ,フランス,オーストリアの移民政策に特化してその特徴を浮き彫りにするとともに,移民による家族統合(家族呼び寄せ)がどのように行われているか,また法的にどのような問題が生じているかについて多角的に検討することを予定している。ヨーロッパにおけるこの問題には,EU法,欧州人権条約のほか,国際法上の移民・難民保護法規,そして国内法上の移民・難民受入体制が密接に関係するため,各々の法規範の適用関係及び関連機関の権限,そして人権保障体制についても整理をしながら,包括的な法的枠組みについて明らかにすることをめざしている。本年度は,ドイツ及びオランダ,ベルギーに渡航して関係諸機関を訪問し,マリー=クレール・フォブレッツ教授,ステファニー・フランク教授,エリック・ジェイム教授,ハインツ=ペーター・マンゼル教授,ナジマ・ヤッサーリ教授など,第一線で活躍している専門家の意見を聴きながら研究を進める予定である。研究分担者は,今後もアジア地域を中心に移民政策及びケア労働者の受入れについて検討を進める予定であり,上述のように移民政策学会の場を活用しながら,研究代表者及び他の研究者と積極的に意見交換を行うことで,共同研究を円滑かつ充実した形で進めることを計画している。そのほか研究代表者は,京都大学とウィーン大学の学術交流の場を活用しながら,両国の移民政策の相違とその政治的・経済的・社会的背景を浮き彫りにし,研究を深化させる予定である。研究成果としては,これまでの研究内容をハーグ国際法アカデミー講義録に収録予定の原稿に盛り込んだものが2019年初めに公表される予定であるほか,日本語及び英語・ドイツ語での論稿を複数予定しており,少しずつ研究成果を発表していく予定である。
すべて 2018 2017 その他
すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (7件) (うち国際共著 1件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 5件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 6件、 招待講演 6件) 図書 (2件)
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