研究課題/領域番号 |
17K03385
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
和仁 健太郎 大阪大学, 国際公共政策研究科, 准教授 (40451851)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 戦争状態 / 戦争 / 伝統的国際法 / 戦時国際法 / 平時国際法 / 国際法の構造転換 / 武力紛争法 |
研究実績の概要 |
本研究は、国際法における「戦争状態」理論(伝統的国際法は平時・戦時の二元的な構造の国際法であり、「戦争」とは、平時とまったく異なる法が適用されるようになる「状態」であったという考え方)を再検討するものである。 平成29年度は、第一次大戦以前の学説・国家実行を検討し、次のことが明らかになった。平時国際法から戦時国際法への「移行」がどのようにして生ずるのかについての説明としては、①交戦国の合意によると説明するか(契約的戦争論)、②国家間の意思が合致する限りにおいて成立している平和状態の解消と説明するか(平和状態解消論)の2つがあり得る。このうち、①については、実定国際法と整合しない点があまりにも多すぎ、また、この考え方を明示的に採用した学説を見つけることもできない。②は、ウェストレイクが実際に採用しており、また、国家実行の現実とも適合的な点が多い理論であった。しかし、平和状態およびそれを規律する平時国際法は一国の意思によっていつでも任意に解消できるという極端な考え方をとった学者は、ウェストレイクのほかにほとんど見当たらない。多くの学者は、戦争についてウェストレイクのように考えるのではなく、中央集権的な司法機関・立法機関が存在しない国際社会において、国家間の紛争を解決するための最後の手段としてやむを得ず容認されているものと考えた。この考え方において、戦争は、平時国際法の実現、または平時国際法の変更の手段だったのであり、平時国際法の枠内で行われる行為だった。もちろん、戦時国際法によって平時国際法は大きな修正を受けるが、それは、敵国に講和条件を受諾させるために必要なことは許されるという原理により成立する戦時国際法が、平時国際法と抵触する限度において特別法として優先適用されるに過ぎないのであって、平時から戦争状態への「移行」といった説明がなされていた訳ではないのである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究は、(1)伝統的国際法(19 世紀~第一次大戦までの国際法)において「戦争」がどのようなものとして捉えられていたのか(「戦争状態」理論がとられていたのか、そうではなかったのか等)を明らかにする部分と、(2)そのようにして明らかにした意味での「戦争」が、現代国際法(第一次大戦以降の国際法)において存在し得るのかを明らかにする部分から構成される。(1)の部分は、平成 29~30 年度の2年度を使って実施する予定であったが、平成29年度は、(1)の部分の研究をほぼ終え、論文にまとめることができた。この論文は、編集上の都合により未刊行であるが、平成30年度の早期に刊行される予定である(和仁健太郎「『戦争状態』理論の再検討:伝統的国際法は平時・戦時の二元的構造の国際法だったのか?」森川幸一ほか編『国際法のダイナミズム:小寺彰先生追悼(仮題)』(有斐閣、2018年刊行予定)
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は、主に学説を基にして伝統的国際法における「戦争」または「戦争状態」の性質を明らかにする作業を行った。平成30年度は、開戦宣言、開戦の 条約に対する効果、交戦権、中立、講和といった個別の問題に関する国家実行の分析を通じて、伝統的国際法における「戦争」または「戦争状態」の性質をより詳細に明らかにする。そのうえで、平成31年度と32年度は、現代国際法における「戦争」の意義について研究を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
(B-A)の額(662円)で研究計画の遂行に有用なものが存在しなかったため。次年度の交付金と合わせて、より有意義に使用する予定である。
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