研究課題
伝統的国際法(第一次大戦以前の国際法)が平時・戦時の二元的な構造の国際法であったのに対し、戦争が違法化された現代国際法は平時に一元化された国際法である――このような理解は、特に我が国の国際法学界において広まっている通説的見解である。本研究は、このような通説的見解が正しくないことを指摘する。4年間の研究実施機関のうち、最初の2年間は第一次大戦前の国家実行・学説を、後の2年間は戦間期以降の国家実行・学説を検討し、次のような結論を導いた。すなわち、伝統的国際法における戦争とは、中央集権的な司法機関・立法機関が存在しない国際社会において、国家間の紛争(現行法の実現をめぐる紛争のほか、現行法の変更をめぐる紛争が含まれる)を解決するための最後の手段として認められていたものだった。戦争は、平時国際法の実現または変更を目的として行われる行為だったのであり、平時国際法と異次元の領域で行われるものだった訳ではない。この意味で、伝統的国際法も、現代国際法も、ともに一元的な構造の国際法であると評価するのが正しい。しかしもちろん、伝統的国際法における戦争と同じことが現代の国際法において行える訳ではない。伝統的国際法において、戦争とは、現行法の実現または現行法の変更を目的として、他国に強制を加える行為であった。これに対し、現代国際法では、紛争解決の手段としての戦争または国家政策の手段としての戦争は禁止されており、武力攻撃排除のための自衛権の行使が認められているだけだからである。「二元的構造の国際法」と「一元的構造の国際法」とを対比させるのではなく、戦争と自衛権の法的性質の違い(さらに国連安保理の軍事的強制措置とそれらとの違い)が、かつて戦時国際法を構成していた諸制度の妥当にどのような影響を及ぼすかという観点から様々な問題を考えるべきである。
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