国連組織の法秩序を検討するには、規範形成のみならず、それがいかに明確化され、それにより秩序が安定的に維持されてきたかも見ておく必要がある。国連憲章を有権的に解釈する機関が存在せず、その解釈は各機関や加盟国など機構の構成員に委ねられているとはいえ、これまで他の機関も解釈を行い、規範の明確化に貢献してきた。従って、本年度は、(1)司法的機関および(2)非司法的機関による実行を分析する。さらに、(3)学説も重要な役割を果たしてきており、これらを併せて総合的に考察した。 (1)司法的機関による実行の検討:ここでは、国際司法裁判所(ICJ)の勧告的意見の分析が中心となった。これに加え、国連紛争裁判所(United Nations Dispute Tribunal)および上訴裁判所(United Nations Appeals Tribunal)(かつての国連行政裁判所)や旧ユーゴ国際刑事裁判所などの判例分析も併せて行った。 (2)非司法的機関による実行の検討:ここでは、国連事務局の法務局(Office of Legal Affairs)の見解や、ILCでの議論などが研究対象となった。 (3)学説の検討:ここでは、主として、国際機構の行為を正当化する文脈でこれまで展開されてきた「黙示的権能理論」や「後の実行」などに関する学説の動向分析が中心となった。 なお、研究方法として、ICJその他の司法機関の判例集、UN Juridical Yearbook、国連関連データベース、国際機構関連文献などを用いて研究を行った。
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