研究課題/領域番号 |
17K03390
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
竹内 真理 神戸大学, 法学研究科, 教授 (00346404)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 国際条約 / 国内実施 / 管轄権 / 域外適用 |
研究実績の概要 |
2018年度は、条約体制のダイナミズムを示す指標としての、条約締結後の展開の態様に焦点を当てた。具体的には、規範の形成・補完に様々なアクターが関与する態様に着目し、2つの事例研究を行った。 第1に、テロ資金供与防止条約の展開において、インフォーマルな政府間会合体である金融活動作業部会(Financial Action Task Force, FATF)が果たしている役割を取り上げた。FATFは条約上の機関ではなく、また国際機構としての法人格を欠くインフォーマルな会合体であるが、その勧告は、独自の遵守メカニズムのゆえに、強力な遵守誘因力(compliance-pull)を有している。事例研究を通じて、この勧告の国内実施が、実質的にテロ資金供与防止条約の解釈の標準化という現象を生み出していることや、条約を超える規範形成に貢献していることなどを指摘し、それが国際法の法源論や法解釈論に与えるインパクトについて検証した。 第2に、気候変動枠組条約の展開において、国家・地域的国際機構の一方的行為が果たしうる役割について検討した。具体的には、船舶からの温室効果ガスの排出削減に向けたEUの取組み(EU Regulation 2015/757)を取り上げた。これは、EU域内に寄港するすべての商業船舶に対して、域外の航路を含む行程における温室効果ガスの排出状況の報告義務を課すものであり、非EU船舶の域外での活動に対するEUの権限行使の正当性が問われうる一方で、IMOにおける合意形成の遅れに対応するための補完的な対応であるとの主張もなされうる。研究を通じて、両者の分岐点が、域外規制を権利の拡大とみるか、義務の分配とみるかにあることを指摘し、環境法分野の法枠組みが両者の調整において果たしうる役割について考察を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2018年度は、研究課題の一部である条約体制のダイナミズムを検証するための事例研究を行い、その内容を国際会議やワークショップで報告することができた。また、研究成果もテロ資金供与防止分野については、論文として公表しており、環境分野についても順次公表予定である。当初予定していた人権条約上の管轄権概念については情報収集に留まっているが、こうした変更はむしろ研究課題の発展的な進捗状況を示すものと考えられるため、研究はおおむね順調に進展しているものと考える。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度となる2019年度においては、これまでの事例研究を踏まえ、総論的な考察を行う予定である。一方では法源論の現代的な展開を跡付けつつ、他方では近時議論が活発化しつつある管轄権概念の検討を並行して進め、両者の相互作用について理論的な考察を行うことを予定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
2018年度は、国内で開催された国際会議での報告が追加されるなどの事情変更が生じ、予定していた外国出張を一部延期したため、海外渡航旅費として予定していた分が未使用となった。しかし2019年度はすでに外国のワークショップでの報告予定があり、その他にも招待講演の依頼があり、順調に執行する予定である。
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