本研究は、従来国家の広い裁量が認められてきた国家管轄権の行使が、国際条約上の義務とされることで、いかなる影響を受けるのかを検討することを目的とする。 2021年度以前の研究年度においては、国連腐敗防止条約やテロ関連条約などの特定の分野を取り上げて、条約の構造や条約が義務の内容や射程を拡大・豊富化させていく態様について個別の検討を行ってきた。研究最終年度に当たる2021年度には、それらを総括する目的で、これまでの成果に照らして管轄権概念を再検討し、多元化する国際法システムにおける管轄権の位置づけを確認することに努めた。 具体的には第1に、管轄権概念の基礎を確認し、特に立法管轄権と執行管轄権の相互作用を明確化することに努めた。一方で、立法管轄権に関しては実質的な関連という要請が内在的な制約となる。他方で、外国の領域内での執行管轄権の行使が禁じられていることは、立法の内容の実現が執行の実効性に係らしめられているという意味において、外在的な制約となる。 第2に、第1の点を踏まえて、各種条約体制が管轄権の構造をどのように条約目的の実現に取り入れているかを検証した。テロ関連条約に共通して取り入れられている「引渡すか又は訴追する義務」は、刑事法分野において執行管轄権を実効的に行使できる立場にあるのが、被疑者の所在地国であることを踏まえて、当該所在地国に執行管轄権の行使を義務付けるものである。これは、伝統的には、一国が自国領域内において自国の利益の実現のために独占していた執行管轄権の行使を、諸国家の共通利益の実現手段に転換させる手法であり、それゆえ、条約体制の下での管轄権の機能変化を示すものであることを指摘した。 以上の研究成果を、逐次論文として公表した。
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