研究課題/領域番号 |
17K03391
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研究機関 | 立教大学 |
研究代表者 |
許 淑娟 立教大学, 法学部, 准教授 (90533703)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 領域法 / 脱植民地化 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、植民地化以前の非ヨーロッパにおける領域秩序を現代の領域法や海洋法によって適切に評価することができるのか、その可能性と限界の探求にある。 2018年度は、現代の領域法の出発点といえる「主権の表示」アプローチの意義とその変容を、諸判決及び諸文献から確認することから始まった。パルマス島仲裁事件で展開された「主権の表示アプローチ」とは主権を行使することそれ自体によって領域主権の根拠を与えられるという動態的なアプローチである。他方で、1980年代以降に国際裁判に付託された数多くの領域紛争事件においては、Uti Possidetis原則の依拠であったり、同原則が適用されない場合にも、条約や取り決めといった合意に基づいて領域主権を判断し、領域主権が実際に行使されているかが論じられていない。 こうした、領域主権が実際に行使されているかを論じない国際裁判の傾向の意義について、少なくとも三点の要素が指摘される。①書かれた権原における合意とはなにか。②領域主権における主観的要素の役割は何か。③主権と領域を繋ぐものとして、人的つながりや近接性というものの再浮上ではないか。そこで、本年度は第一点目のいかに過去の合意あるいは書かれた領域権原に基づいた領域主権の判断がなされたのか、それがどのような意義を持つのかを明らかにした。とりわけリビア・チャド事件(1994年)におけるSenoussi Orderの行為、カメルーン・ナイジェリア事件(2002年)におけるナイジェリアの歴史的凝縮の議論をどのように国際司法裁判所が取り扱ったかを、パルマス島事件および西サハラ意見という今や古典的な位置を占める先例に照らしつつ検討し、さらに、ペドラ・ブランカ事件やエリトリア・イエメン仲裁という新しい判決とも比較し、書かれた領域権原への依拠の意義と機能、その帰結を展望した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までの進捗状況については、本課題申請時の予定に比べるとやや遅れているとも評価できる。いわゆる公表論文という形での研究業績が多くないためである。しかしながら、本研究採択後に採択された国際共同研究強化の課題に本年度9月以降、従事していること、および、国際共同研究の成果を共同研究終了後に本課題に取り入れることに鑑みれば、おおむね順調に進展していると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
来年度前半まで在外研究の機会を生かし、国際共同研究強化にて採択された課題に従事する。その課題に従事しながら、本課題へのフィードバックのあり方を模索する。具体的には、国際裁判の傾向として指摘した①書かれた権原における合意とはなにか。②領域主権における主観的要素の役割は何か。③主権と領域を繋ぐものとして、人的つながりや近接性というものの再浮上の三点のうち、②および③の役割を考察する。そのうえで、2018年度に進めていた東アジアにおける国際法および領域法の受容ならびにその置換の歴史学的な検討を再開し、その知見を判決分析に組み入れる作業を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度後半より英国における国際共同研究を始め、それに専念している。その研究費は、別途、国際共同研究加速基金から執行されているため、本年度後半に本研究課題のために研究費を用いることがなかった。来年度後半には、国際共同研究に一区切りがつくため、帰国後に、国際共同研究の成果を踏まえて、本課題に関する作業を再開することにする。資料分析を行い、それを論文という形でまとめる作業に充てられるため、研究費もまた、資料費、人件費(資料整理および英文校閲)に充てられる。
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