本研究の究極的な目的は、植民地化以前の非ヨーロッパにおける領域秩序を現代の領域法や海洋法によって適切に評価することができるのか、その可能性と限界の探求にあった。領域法で広く用いられる「主権の表示」アプローチはヨーロッパにおける領域支配の実効性を前提としており、非ヨーロッパにおける空間支配をどのように把握し得るのか、そのための法技術的な工夫(糊塗する方法)はいかなるものであるかを、高い解像度で示すことが本研究が目指すところであった。実はそうした工夫は、海洋に対する規律のあり方とも相互関連があり、陸と海を含めた空間秩序における実効性概念の操作可能性に着目した。ある程度まとまった段階で、個別の独立した論考として公表あるいは学会報告を行ってきた。 最終年度はそれらを総括するものを準備しつつも、さしあたり本研究で得られた知見を基に以下の論点について論考を公表した。第一に、昨今の国際情勢を受けて、実効性なき領域支配の可能性と正当性なき領域支配の限界事例として、ロシアによるウクライナ侵攻との対比で、あらためて、ハニシュ諸島半島(エリトリア・イエメン仲裁)とバカシ半島紛争(カメルーン・ナイジェリア事件)の事実関係および判決論理とその狭義および広義の意義を明らかにした。第二は、非ヨーロッパの領域支配ではないものの、主権とのリンクがない海底ケーブルの規制のあり方について、主権の実効性あるいは規制の実効性の観点から考察した。第三もまた、実効性が想定されない主権付与の一例として、あらためて大陸棚制度について、最新判決を題材に検討した。 なお、研究期間は終了したが、公表することができかなった①書かれた権原における合意とはなにか。②領域主権における主観的要素の役割は何か。③主権と領域を繋ぐものとして、人的つながりや近接性というものの再浮上の三点について、すみやかに公表し、研究の取りまとめとしたい。
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