研究課題/領域番号 |
17K03394
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
萬歳 寛之 早稲田大学, 法学学術院, 教授 (10364811)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 国家責任 / 原告適格 |
研究実績の概要 |
平成29年度は、国際司法裁判所における共通利益の回復のための原告適格の判断に関する発展動向の研究を行った。共通利益を設定する国際法規範の国内実施を確保するにあたって、国家責任紛争の解決を求めるかたちで国際司法裁判所を通じた国際的実現を図る場合がある。本研究では、まず、多国間条約の紛争解決条項の意義を検討しつつ、次に、国際裁判における原告適格の条件を考察した。後者の原告適格の根拠を探求する際には、原告適格の慣習国際法上の条件とともに、司法裁判所の権限の範囲も問題となる。 こうした問題意識にもとづき、具体的には、(1)ウィンブルドン号事件において直接の損害を受けていない日本とイタリアに認められた原告適格の根拠の関係性、(2)南西アフリカ事件において直接の損害を受けていないエチオピアとリベリアの原告適格が否認された根拠、(3)訴追か引渡かの義務事件や捕鯨事件における原告適格容認の根拠、(4)多国間条約一般における紛争解決条項の機能を検討した。 上記の検討を通じて、伝統的国家責任法では、国際義務違反と権利侵害の因果関係と国際義務違反と損害の因果関係という2種の因果関係の立証が必要であり、なかでも前者が原告適格の立証にとって不可欠と考えられていた。そのため、共通利益の侵害があったとしても、直接の権利侵害を受けていない第三国には原告適格が認められる余地がなかった。しかしながら、共通利益の侵害に関わる勧告的意見の積み重ねによって、国際義務違反の存在の立証のみで責任国の特定が行われるようになり、徐々に因果関係の重要性が薄れていくようになった。こうした動向を受けて、争訟事件でも、国際義務違反と権利侵害の因果関係の立証は求められないようになり、それが、特に訴追か引渡しかの義務事件における第三国による責任追及の原告適格の容認につながったことが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
現段階での進捗状況は、常設国際司法裁判所と国際司法裁判所の勧告的意見・争訟事件の判決にみられる国家責任論の詳細な内容の把握と、その発展・変遷の過程を追うことはできたという段階である。つまり、判例評釈の積み重ねにより、共通利益を設定する国際法の違反のあった場合の責任追及のための原告適格の要件についてはしっかり把握することができ、この段階までの実績として、1本の論文にまとめた。 しかしながら、裁判所の国家責任論の特質の背景にある、制度的基盤に関する解明までには至らなかった。つまり、国際連盟規約と常設国際司法裁判所規程の関係及び国際連合憲章と国際司法裁判所規程の関係といった司法機能を枠づける国際法制度論の検討がまだ行えていない。 判例評釈を通じた国家責任法の解釈論は一定の結論に達しつつも、国際司法裁判制度論の中での国家責任論の探求という部分の課題が残っているという意味で、進捗状況はやや遅れていると判断をした。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は、国際司法裁判制度論の研究とあわせて、共通利益を設定する義務のうち、特に人権条約を分析の対象としたい。人権条約の国内実施を確保するための国際的実現の方法を検討するにあたり、具体的には、(1)人権条約における国内実施の意義、(2)人権条約における報告・通報制度の特質、(3)人権条約で設置された委員会の任務、(4)人権条約における紛争解決条項の機能を検討する。 この研究を進めていくためにも、女性差別撤廃委員会や自由権規約委員会の委員を務めた(あるいは務める予定の)研究者にインタビューを行って、理論と実務の架橋をはかる予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成29年度は予定していた欧米への出張が先方の都合等によりできなかったり、PC等の物品の購入を控えたりしたため、次年度に繰り越さざるをえない部分が出てきた。平成30年度には、特に人権問題等について意見交換をするために、欧米への出張と海外からの招聘を行う予定であり、平成29年度の繰り越し分と平成30年度の助成金で研究を十全に進展させていくことができると考えている。
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