研究課題/領域番号 |
17K03401
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
中川 晶比兒 北海道大学, 大学院法学研究科, 教授 (20378516)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 社会法学 / 独占禁止法 / 協調的行動 / 合併規制 / プライスリーダーシップ / ゲーム理論 / 協調的寡占 |
研究実績の概要 |
本年度は、競合企業間の横並び価格といった並行行為が、各企業が独立して意思決定をした結果(競争の結果)として実現される場合と、競合企業間の競争制限的な行動として実現される場合とを識別するための基準作りを行った。具体的には、プライスリーダーシップに関する経済学の先行研究をまとめ、ゲーム理論を用いたモデル分析による再現を行い、さらにモデル分析の結果を、法的基準に抽象化する作業を行った。プライスリーダーシップの最初の理論的接近は、支配的企業モデルの構築に伴って、1930年代までになされた。その後は各産業において観察されるプライスリーダーシップの実態解明(ケーススタディ)と、リーダー企業の属性による分類に関心が移ったが、その発生メカニズムは不明なままであった。また、競争の結果として実現されるプライスリーダーシップと競争制限行動として実現されるそれとを識別できないことはこの時代から指摘されていた。1980年代以降にゲーム理論を使った分析が行われるようになると、競争の結果としてプライスリーダーシップが実現されることが説明されるようになる。他方で、競争制限的なプライスリーダーシップに関する研究は、ゲーム理論においてもカルテルを念頭に置いたものに限定されてきた。これらのサーベイ及び分析の結果、価格競争・数量競争いずれのモデルにおいても、競争の結果としてプライスリーダーシップが実現される場合を特定できた。それに基づいて、競争制限的な協調的行動を再定義することにより、識別基準を構築した。また、ゲーム理論以前の時代の研究の調査を通じて多くのケーススタディが入手できたため、研究当初に想定していたよりも多くの経験的事実を、最終年度の分析に活かせることとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
競争企業間の横並び行動を、競争的行動と競争制限的行動に識別する基準を構築することは、最終年度にかけての目標としており、この最大の目標を順調に達成できた。他方、プライスリーダーシップの古典的な研究(ゲーム理論以前の時代のもの)にまで遡ることによって、研究開始当初に想定していたよりも豊富なケーススタディが得られた。これらを精査する作業は一部が最終年度にずれこむことが予想されるため、達成度としては「おおむね順調」とした。 本研究の着想が的を射ていたために順調に研究目的が達成できたことは、このほかにも以下の点を挙げられる。(一)競争の結果としてプライスリーダーシップが実現されることをゲーム理論で分析した研究は、政策的な文脈ではほとんど注目されてこなかった。本研究はそれを視野に入れることで識別基準の構築にたどり着けた。(二)差別化された財の価格競争モデルでは、リーダーとフォロワーの均衡価格が一般に同一価格にはならないが、なぜ現実がモデルと異なっているのかについて、その説明のヒントを、ゲーム理論以前の古典的な研究の中に発見できた。(三)プライスリーダーシップに関する先行研究が日本においてどのように継受されたかを分析することで、「協調的寡占」という(日本で特異的に使われる)用語の理論的射程を明らかにできた。「協調的寡占」は無定義のまま使われるが、一般には価格引き下げ競争の有無、新規参入の有無、事業者の設備投資や市場シェア拡大行動の有無、技術進歩の有無、を基準に、競争的寡占か「協調的寡占」かに分類するために使われてきた。もっともなぜこれらの状況を根拠に「協調的」と言えるのかという説明は、一般になされていない。唯一の例外は小林好宏教授の研究(1966-1971)であり、支配的企業が自分よりも効率性の劣る周辺的企業を残存させること(共存共栄)をもって、協調的であるという説明を与えている。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は当初の予定通り、本年度に構築した識別基準を経験的事実(ケーススタディや事後検証結果等)と比較することにより、識別基準の妥当性を検討し、適宜必要な修正を施して完成させる。
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次年度使用額が生じた理由 |
ゲーム理論に依拠した理論的研究と識別基準の構築が年度内にまとまりそうだったため、集中的に時間が取れる年度内での作業を優先し、海外出張の予定を延期したため、残額が生じた。当該経費については、2019年度にこの分を充当して、速やかに予算を執行する。
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