研究課題/領域番号 |
17K03401
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
中川 晶比兒 北海道大学, 大学院法学研究科, 教授 (20378516)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 合併 / 協調効果 / 協調的行動 / 対称性 / 繰り返しゲーム理論 |
研究実績の概要 |
本年度は、昨年度までの研究で得られた協調的行動の識別基準について、競争法執行当局における現在の通説的な判断基準であるチェックリスト・アプローチ(以下では「伝統的アプローチ」という。)から、私見に対して予想される批判を検討することにより、規制基準としての妥当性をさらに深く検討した。伝統的アプローチは、繰り返しゲーム理論に基づいて、合併後に協調的行動が取られやすくなるかどうかを予測するが、実際の判断においては定量的な判断が求められるにもかかわらず、伝統的アプローチでは質的な判断しかできないために、合併前の市場構造が協調的行動の起こりやすい状態なのか確信をもって判断できないことが、認識されている実務上の課題である。本年度は、伝統的アプローチにおいて考慮される要因の中でも、企業間の対称性と、協調的水準からの逸脱インセンティブに焦点を当てて、本研究の提唱する識別基準が批判に応えうるか検証を行った。数量競争と価格競争に分けてモデル分析を行った結果、協調的水準からの逸脱インセンティブを考慮した形で識別基準の修正を施した。協調効果の予測に使える事情について、本研究の結論と一部重なる内容は、Farrell & Baker (2021)でも見いだすことができた(ただし同論文と本研究の立場は異なっている)。また、企業間の対称性については、伝統的アプローチとは一部異なり、企業間の非対称性があることは協調的行動を必ずしも害さないこと、価格競争の場合には競争の一部の側面でむしろそれが必要でありうることを示すことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究成果とりまとめの段階で、当初の研究計画よりも時間がかかっている。それは、本研究のアプローチが伝統的アプローチとは異なる問題意識を出発点に置いたため、これまでの議論を批判しつつ、新規に論じなければならない内容が多く、また先行研究を応用しなければ研究成果にたどり着けないからである。そのため本研究の意義を理解してもらうためには、伝統的アプローチとの異同を踏まえた丁寧な論述が必要と考え、慎重に研究を進めてきた。合併の協調効果に関しては、2020年から2021年にかけて著名な経済学者による論文が複数公表され、本研究の重要性を確認できた。なかでもFarrell & Baker (2021)及び Loertscher & Marx (2020)は、伝統的なアプローチとは異なり、逸脱に対する制裁を議論せずに協調的効果の予測を試みるものであり、本研究を遂行する上で参考にした。しかし前者の論文は結局のところ単独効果の問題に議論が終始していること(単独効果との区別が曖昧になることは論者自体も認めている)、後者の論文では協調効果を識別する指数を導入しているが、取引金額の非対称性を考慮せずに協調的水準のシェアを特定できるのかという疑問が残り、伝統的アプローチから離れた議論としては成功していない。本研究は伝統的アプローチからいったん離れつつも、最終的には逸脱インセンティブやそれへの制裁について考慮しており、学界への貢献が期待される。
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今後の研究の推進方策 |
既に研究成果のとりまとめの段階に入っているので、本研究が提唱する識別基準の根拠となる先行研究をさらに調査して成果を慎重にとりまとめ、研究会での報告を経て年度内での公刊を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究成果のとりまとめを延期したため、英文校正費用に充てる費用について残額が生じた。当該経費については、2021年度にこの分を充当して、速やかに執行する。
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