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2021 年度 実施状況報告書

協調的行動規制の多角的検討

研究課題

研究課題/領域番号 17K03401
研究機関北海道大学

研究代表者

中川 晶比兒  北海道大学, 大学院法学研究科, 教授 (20378516)

研究期間 (年度) 2017-04-01 – 2023-03-31
キーワード合併 / 協調効果 / 協調的行動 / 積極主義 / 消極主義
研究実績の概要

本年度は、協調的行動に基づく弊害を根拠に水平合併規制を強化すべきとする議論動向を調査し、それらの積極規制説と現在の執行方針との相違は、行為が弊害をもたらす一般的傾向に関する事実認識に起因することを明らかにした。協調的行動に基づく水平的企業結合規制が下火になり、また近年再び積極規制説が現れている米国の議論状況が最適な検討素材となった。積極規制説の根拠は、寡占市場での並行的な値上げを示す実証研究の蓄積と、それらをカルテル規制で捉えるのが困難であることにある。すなわち、積極規制説は規制されるべき協調的行動がしばしば行われるという事実認識を前提とする。他方で、協調的行動のメカニズムに不明確さを感じる論者は、協調的行動規制が下火になっているという事実に依拠して法解釈適用の態度を決定する。すなわち、「水平合併が協調的行動によって競争に悪影響を与えることは多くない」というのは、それ自体としては事実命題であり、法の解釈適用にあたって直接検討の対象にはならない。従って、このような事実命題がそもそも経験的に正しいかどうかは、吟味されないまま、各人の認識として保持される。しかし違反になることが少ないという事実認識は、「もし当該類型の行為が問題とされたならば、慎重に法を解釈適用しなければならない」という形で、法の解釈適用に対する態度(積極対消極)に影響してしまう。この無意識の作用を通じて、「ある行為類型が独禁法違反になることはほとんどない」という命題は、self-perpetuating assumptionとなる。つまり、この信念をいったん受け入れると、その種の行為を違法とすることに躊躇するようになり、違反となる事件が少なくなるから、「この種の行為はめったに違法にならない」という信念がますます強まるのである。このような信念は改訂しにくく、現状維持バイアスが強く働く。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

3: やや遅れている

理由

研究成果とりまとめの段階で、当初の研究計画よりも時間がかかっている。新型コロナウイルスの感染拡大が収束せず、研究時間の確保が困難であったことが主たる原因である。それでも本年度は、協調的行動規制に対する消極的見解と積極的見解との相違の根源が、行為の一般的傾向に関する事実認識のレベルにあることを解明できた。このような事実認識レベルでの相違は、米国ではシカゴ学派の反トラスト法学が、企業結合規制以外の分野(特に独占化など現在改革が求められている分野)でも、実務に根強く影響力を持っていることを説得的に説明できる。従って本年度に得た知見は、企業結合以外の分野でもそのまま適用できる一般的な知見であり、当初の研究計画で想定した以上の成果を得ることができた。また、このような事実認識の相違については、各人の自覚を促し、自らが無意識のうちに特定の態度に陥ることを防ぎつつ、お互いの認識の違いを明らかにすることしか、意見の対立を解消する方法はないことも明らかにすることができた。以上の知見は、協調的行動規制に関する法の発展が容易でないことを示すと共に、協調的行動の発生メカニズムに焦点を当てた本研究の意義を再確認させるものであった。

今後の研究の推進方策

既に研究成果のとりまとめの段階に入っているが、本研究の成果を慎重にとりまとめ、研究会での報告を経て年度内での公刊を目指す。

次年度使用額が生じた理由

研究成果のとりまとめを延期したため、英文校正費用に充てる費用について残額が生じた。当該経費については、2022年度にこの分を充当して、速やかに執行する。

  • 研究成果

    (1件)

すべて 2022

すべて 図書 (1件)

  • [図書] 経済法 独占禁止法と競争政策 第9版補訂2022

    • 著者名/発表者名
      岸井大太郎・大槻文俊・中川晶比兒・川島富士雄・稗貫俊文
    • 総ページ数
      497(1―497)
    • 出版者
      有斐閣

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公開日: 2022-12-28  

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