業務委託等の契約形態によるいわゆるフリーランスについて、初期の計画通り研究を進め、フランス、ドイツ、イギリス、アメリカの比較法研究および日本のフリーランス保護法の制定に向けた示唆と課題を本としてまとめて、石田信平・竹内(奥野)寿・橋本陽子・水町勇一郎『デジタルプラットフォームと労働法―労働者概念の生成と展開』(東京大学出版会、2022年11月)〔共著〕として出版した。 同書では、今日の労働法および社会保障法が、19世紀半ば以降の工業化の進展のなかで、工場で集団的に従属して働く無期フルタイム労働者を社会的モデルとして生成したという歴史的背景をもっていることを明らかにしたうえで、20世紀後半の脱工業化(サービス経済化)に伴うホワイトカラー労働者の増加および雇用形態の多様化が、労働時間法制の柔軟化や正規・非正規労働者間の格差是正・中立化など、無期フルタイムの工場労働者を想定して形作られてきた労働法・社会保障法制の大きな修正をもたらし、さらに、今日のデジタル化に伴う労働力の外部化・ネットワーク化が、労働法・社会保障法の基盤(適用対象)となってきた「労働者」概念(19世紀後半以降の「工場労働」の特徴であった人的従属性に規定された概念)そのものに疑問を投げかけ、労働法・社会保障法制の構造を揺るがすものとなっているという歴史的背景を明らかにした。 その上で、同書では、そもそも労働法はどのような社会状況のなかで生まれ今日に至っているのか、今日のプラットフォームビジネスの台頭はこの労働法の基盤や構造にどのような課題を投げかけているのか、各国はそのなかでどのような法制度改革を行おうとしているのか、を分析し、日本のこれからの議論に対し学問的な示唆を得た。
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