研究課題/領域番号 |
17K03405
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
関 ふ佐子 横浜国立大学, 大学院国際社会科学研究院, 教授 (30344526)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 社会保障 / 所得保障 / 医療 / 公務員 / アメリカ |
研究実績の概要 |
本研究では、公務員の社会保障、とりわけ所得(年金と雇用)および医療保障をめぐる現状を分析し、アメリカとの比較研究を行うことで、公務員の社会保障をめぐる課題を本格的に研究することを第一の目的としている。 研究の初年度である本年度は、第一に、公務員の社会保障制度全般について、法学の視点からの研究状況を改めて整理・分析することに時間を割いた。公務員の年金・医療制度に関する図書や文献を網羅的に集め、研究室で雇用した事務職員とリサーチアシスタント(大学院生)のサポートを得ながら整理した。第二に、公務員の社会保障制度をめぐって、これまでどのような改革がなされてきたのか、改革の歴史について整理を始めた。これにより、本研究をめぐる課題の解明に必要な論点の抽出を試みた。 第二に、公務員の社会保障制度のなかでも、年金制度について研究した。とりわけ、公務員特有の唯一の年金給付となった退職等年金給付について研究した。退職等年金給付の立法過程を振り返り検証した。さらに、法律の構造などから、退職等年金給付の性格を考察し、公務員固有の年金制度の意義を探る作業に着手した。 またアメリカの公務員の社会保障制度について、研究状況を整理した。平成30年3月にアメリカのSyracuse大学を訪問した際に、Nina A. Kohn教授と意見交換し、アメリカにおいて、どのような研究が蓄積されてきたかを探った。こうした研究から、初年度は、その後の比較法研究を進めていくうえでの足がかりを探った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
第一に、交付申請書で計画をたてたとおり、初年度である本年度は、公務員の社会保障制度全般について研究状況を改めて整理・分析した。事務職員とリサーチアシスタントのサポートを得ながら、公務員の年金・医療制度に関する図書や文献を検索し、網羅的に集め、整理し、複写やPDF化した。 日本の公務員政策に関する膨大な資料およびアメリカの公務員政策に関する連邦・各州の膨大な資料を単独で収集・整理・分析するのは難しい。そこで、本年度はまず、研究費で雇用した事務職員とリサーチアシスタント(大学院生)とで、どのように作業を分担するのかを検討し、研究室の作業体制を整えた。理系の研究手法にならい、申請者の指示のもと、研究室のチームによる共同作業として、可能な資料の収集・整理・分析を研究室のマンパワーを活かして行なっていく体制を構築することができた。 第二に、公務員の社会保障制度のなかでも、退職等年金給付についての研究を進め、公務員固有の年金制度の意義を探る作業に着手することができた。公務員固有の制度の存在意義を探るためには、兼業禁止、守秘義務といった公務員特有の規制の制約や実態を改めて掘り下げて検討し、それとの関係で年金制度などのあり方を探る作業が重要であることが分かった。 第三に、アメリカの公務員の社会保障制度について、研究状況を整理し、アメリカの高齢者法の研究者であるNina A. Kohn教授と意見交換することができた。今後の比較法研究を進めていくうえでの足がかりとなった。とりわけ、退役軍人をめぐる充実した所得保障・医療保障について意見交換した。そのほか、アメリカでは、CCRCやホスピスを見学したところ、現場の実務家からも退役軍人をめぐる保障の充実について聞くことができた。 研究の成果は、高齢者法研究会で2回報告するとともに、東京社会保障法研究会で報告した。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は、交付申請書で計画をたてたとおり、さらに平成29年度の研究成果を反映させ、次の2点について研究する。(1)年金と雇用の接続、(2)公務員の医療保障。 公務員の社会保障制度のなかでも、第一に、年金と雇用の接続について研究する。これにあたっては、公務員の再任用制度を掘り下げて研究する。とりわけ、短時間での再任用が中心となっている現状を分析し、この課題を解決するための立法改革のあり方を探る。さらに、公務員については、権限と予算を背景とした押付け的な再就職の斡旋が行われないよう、国家公務員法が各種の退職管理について定めている。この点、公務員の離職後の再就職を一元的に行うために設置された官民人材交流センターは、未だ十分に機能しているとはいいがたい。そこで、平成30年度は、これをめぐる課題など再就職支援をめぐる課題を検証する。 第二に、公務員の共済組合の短期給付事業(医療保険)について研究する。規模の大きな被保険者集団である共済組合について研究することで、医療をめぐる高齢者と若・中年者の配分的正義について考察する。具体的には、短期給付事業を通じた若・中年者から高齢者への所得の再分配の実態と課題を明らかにする。 以上の(1)と(2)の研究にあたっては平成29年度と同様にアメリカとの比較研究をする。とりわけ、公務員のなかでもアメリカでは軍人をめぐる保障が充実していることから、退役軍人をめぐる保障に着目していく。人事院の資料、アメリカの文献などを研究室の共同作業で分析する文献研究の手法は、平成29年度と同様である。アメリカ研究については、現地の研究者や実務家とメールやスカイプを使用して意見交換する予定である。 平成31年度の研究計画と方法も交付申請書に記載した点に加えて、それまでの研究を反映させた形とする予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
各種のデータや資料を保存・分析するために高性能のパソコンを購入予定であり、ウィンドウズのアップデート時期との関係でパソコンの購入時期を検討した。パソコンの安定性に鑑みると2018年6月ごろの購入がよいと判断し、購入時期を見合わせた(マイクロソフトのWindows10は年に2度ほど更新されるところ、メジャーアップデート直後はウィンドウが安定しない可能性が高い。最新のアップデートがメーカーで適用された状態でパソコンを購入したく、これまでのWindowsのSP提供時期との関係で上記予測をたてた)。 さらに、本年度はアメリカでの現地調査を予定していたが、別の研究費(基盤研究(B)特設分野研究)でアメリカに調査にいったため、本研究による調査は先送りすることとした。なお、別の研究費でアメリカに調査に行った際も、上記のとおり本研究についての意見交換をアメリカの研究者や実務家と行いはしたが、十分に行えたわけではない。そこで、平成30年度にアメリカに現地調査に行くべく、その旅費を次年度に繰り越した。
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