研究課題/領域番号 |
17K03405
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
関 ふ佐子 横浜国立大学, 大学院国際社会科学研究院, 教授 (30344526)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 社会保障 / 所得保障 / 医療 / アメリカ / 公務員 / 年金 / 雇用 / 再任用 |
研究実績の概要 |
平成30年度は研究の2年目であり、平成29年度に引き続き公務員の社会保障に関する文献を収集し、公務員の(1)年金と雇用の接続、(2)医療保障について研究した。 第一に、事務職員とリサーチアシスタントのサポートを得ながら、公務員の年金・医療制度に関する図書や文献を検索・収集し、整理・複写した。アメリカについては、とりわけ退役軍人の所得・医療保障について充実した保障の内容を調べた。 第二に、(1)について、公務員をめぐる法改正の動向を追いつつ、再任用制度などを研究した。政府は、平成31年1月、国家公務員の定年を60歳から65歳へ段階的に引き上げる国家公務員法などの改正案の通常国会への提出を見送った。本研究では、法改正に向けた作業に携わった人事院の担当者から話を聞くなどして、法改正をめぐる論点を洗い出した。さらに、長澤運輸事件の最高裁判決(平成30年6月1日)など高齢労働者一般の就労と所得保障の接続をめぐる理論的課題を検討し、公務員の再任用と処遇の変更との相違点について考察した。 第三に、(2)の医療保障については、終末期医療を一般的に検討した。 研究の成果は、一般的な所得保障と就労の関係を、論文「高齢者の雇用・社会参加・所得保障」に公表した。また、高齢者の差別と特別な保障といった理論的な課題について、高齢者法研究会で報告した。高齢者の終末期医療については、アメリカの動向を比較法学会で報告するとともに論文「アメリカの終末期ケア」で公表した。そして、平成30年6月にイスラエルのテルアビブで開催された国際会議"Elder Law and its discontents"にて、高齢者雇用と賃金減額について問題提起した。さらに、リサーチ・アシスタントを務めた指導する大学院生が、「高齢者の雇用政策―中日公務員の人生 100 年時代の働き方」というテーマで修士論文を執筆し、修士号を取得した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成30年度は、平成29年度の研究成果を発展させるとともに、公務員の年金と雇用の接続および医療保障について研究した。 第一に、日本とアメリカ(連邦および各州)の公務員政策に関する資料を、事務職員とリサーチ・アシスタントのサポートを得ながら収集・整理・分析した。 第二に、年金と雇用の接続については、まず、国家公務員の定年年齢を65歳まで引き上げるべく検討されている法改革について検討した。次に、長澤運輸事件を参照しつつ、公務員の再任用にあたって、職種が変わらない場合に俸給を下げることの是非について検討した。現在、公務員の定年退職年齢をあげるとともに、60 歳以降の職員の年収を60 歳以前の 7 割程度に引き下げることが検討されている。さらに、役職定年制の導入が検討されており、60 歳前に管理職であった者については 5~6割程度賃金が引き下げられる可能性がある。そこで、高齢者の差別と特別な保障(年金制度など)との関係を考察した。この点、民間の高齢労働者が定年後に再就職した場合に受け取れる高年齢者雇用継続給付が公務員にはない点との関係も考察した。 さらに、再任用は短時間が中心となっている現状を分析し、課題解決のための立法政策のあり方を探った。公務員については、権限と予算を背景とした押付け的な再就職の斡旋が行われないよう、国家公務員法が各種の退職管理を定めている。この点、離職後の再就職を一元的に行うために設置された官民人材交流センターは未だ十分に機能しておらず、その課題など再就職支援について検証した。 第三に、公務員の医療保障については、終末期医療について、アドバンスド・ケア・プランニング(ACP)や専門家チームによる終末期ケアの意義や利点をアメリカの実態を参照しつつ研究した。さらに、病院における認知症高齢者の拘束の問題について、医療・看護従事者の労働環境との関係も考慮しつつ検討した。
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今後の研究の推進方策 |
令和元(平成31)年度は、本研究の最終年度であり、平成29・30年度に研究した点を掘り下げ、さらに鳥瞰的な視点にたって全体の総括をしたい。 これまでの研究で、所得保障と医療保障の双方において、残された課題は、非常勤職員の処遇改善であることがわかった。国と地方自治体の双方において、多くの非常勤職員が働いており、その雇用の継続と所得の保障をはかっていく必要がある。また、いずれの研究に際しても、公務員固有の制度の存在意義を探るために、兼業禁止、守秘義務といった公務員特有の規制の制約との関係を考察したい。さらに、公務員の共済組合の短期給付事業(医療保険)は規模の大きな被保険者集団であり、これを通じた若・中年者から高齢者への所得の再分配をめぐる課題について、共済組合特有の事由の存否も含めて検討したい。 そこで、具体的には、次の点を研究していく。(1)公務員の年金と雇用の接続、(2)医療保障、(3)非常勤職員の処遇改善。(3)は、本研究により明らかとなった研究計画にはない新たな論点である。これらの研究を、公務員と民間被用者とを比較しつつ行う。全体の総括では、公務員をめぐる課題の解明に必要な論点を抽出し検討する予定である。 日本での文献研究、アメリカとの比較研究の手法は平成29・30年度と同様である。なお、公務員の社会保障制度全般に関する資料の収集はこれまで行ったため、収集した資料を整理し分析する作業を本年度は行う。とりわけ、コンピュータ環境が整ったため、資料のPDF化やHPにアップしていく実態調査の画像の編集作業などを行う。 令和元年度は、論文などによる研究成果の公表に力を入れたい。理論的な研究の一部は、愛媛大学で開かれる日本社会保障法学会にて令和元年5月25日にシンポジウム「高齢者法からみる高齢者特有の課題」で報告予定である。このほか、海外の研究者と意見交換しつつ、研究成果を公表したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度は、コンピュータに詳しい部局助手の不在もあり、各種の画像、データ、資料などを保存・分析・編集するための高性能のパソコンの購入に苦心した。いくつかの業者からパソコンの見積もりを取るなどオーダーに時間がかかり、年度をまたいだため予算を持ち越す形となった。しかし、平成31年4月はじめにはコンピュータが納品され予算を使用した。 高齢者関連施設など、これまでに撮影した動画も含んだ画像の処理を今後行う予定である。
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