職場の健康・安全の確保を、使用者および労働者の労働契約上の権利・義務の中に反映させる理論の追究が、本研究の課題であり、比較法研究の対象としてフランスの警告権・待避権の法理を検討した。また、国内の今日の具体的課題の研究として、特に最終年度にはコロナ禍のもとでの労働者および使用者の有する安全確保の権利義務を検討した。 前者においては、労働者個人に属する個別的警告権・待避権、および企業の社会経済委員会の有する集団的警告権の原理と各権利行使の実情について、判例や通達の検討を通じて明らかにした。特に、それらが職場の安全衛生の最終的な確保手段として認められていることにより、労働契約および団体交渉を通じた健康安全の予防および確保義務に反映される仕組みになっていることを確認することができた。 後者については、以上の比較法研究の知見を、コロナ禍のもとでの労働者の健康確保義務に反映させ、わが国でも、労働安全衛生法25条の規定趣旨の尊重、および、企業の感染状況を前提とした不可抗力論の緩和的適用から導かれる法理として、(1)労働者は感染危険の強度な職場からの待避権を行使し、および、(2)使用者が自主的に(営業閉鎖や時間短縮命令がなくても)休業を講じたとしても、いずれも労働契約上の義務違反の責めを負うことはないという法理を導くことができた。 これらの研究実績については、それぞれ著書および論文において、公表している。
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