研究課題/領域番号 |
17K03415
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研究機関 | 中京大学 |
研究代表者 |
柴田 洋二郎 中京大学, 法学部, 准教授 (90400473)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 育児分担給付(PreParE) / 養育方法自由選択補足手当(CMG) / 父親および子の受入休暇 |
研究実績の概要 |
本研究は、「不安定雇用層に対する所得保障を就労による自立につなげる制度の構築」について検討しようとするものである。そのため、フランスで発展した、1.使用者に雇用創出を促す特殊な労働契約である「援助付契約」と、2.就労促進機能を強化した公的扶助である「活動的社会保障給付」の法的構造(対象者、支給要件、給付内容等)を横断的に検討する(1.について、当初検討予定だった「未来雇用」と「世代契約」は、マクロン新政権下で廃止され、「雇用職能パス」(Parcours emploi competences)という新たな仕組みに変わった。本研究もこれを対象とする)。これらはいずれも、不安定雇用層に対する社会保障と労働の連続性を重視し、両領域にまたがる形で就労機会の拡大と金銭給付を行うものである。また、これらの制度に加えて、不安定雇用層に対する所得保障・生活保障や雇用創出・促進を行う社会保障法制・労働法制も考察の対象とする。 2019年度は、フランスの法制度における「就労と子の養育」に関する給付を検討した。こうした給付の対象には、就労の継続が困難な(不安定雇用層に転落するリスクのある)乳幼児のいる家庭や、不安定雇用層に含まれるひとり親家庭が含まれる。そして、フランスの育児休業、父親休暇、わが国における育児休業給付に相当する諸給付を検討した論文を執筆した(脱稿済み。公表は2020年6月予定)。フランスの特徴は、1.子の養育のための就労の完全な停止だけでなく、時短勤務の場合にも補償給付を受給できる点、2.多様な養育方法に対応する金銭給付の存在にある。1.により、仕事から長期間離れることや完全に離れることがないため、雇用自体や雇用能力を維持できる(さらに所得の喪失も小さくできる)。2.により、家庭外・家族外での保育にかかる費用が補填され、(一般に不安定雇用層に多い)低所得層の就労継続を促進する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年度は、フランスにおける、乳幼児のいる家庭(ひとり親家庭を含む)における社会保障法制と労働法制(と税制の一部)を検討し、就労と子の養育の両立支援の方策(子の養育のために離職し、不安定雇用層に陥ることを防止する方策)を考察することができた。2017、2018年度には、不安定雇用層の1つのカテゴリーである高齢者について日仏両国の検討を行ったため、ここまでの3年間で、高齢者、乳幼児のいる家庭(ひとり親家庭を含む)について検討することができた。以上から、研究は「おおむね順調に進展している」と評価する。 他方で、日仏両国について、不安定雇用層の重要なカテゴリーである「非正規労働者」「長期失業者」「若年無業者」の検討は、十分に行うことができていない。そのため、「当初の計画以上に進展している」とまではいえない。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、不安定雇用層のうち「非正規労働者」「長期失業者」「若年無業者」に対する法制度についても研究を推進する。その際、社会保障法・労働法の観点からは、それぞれ次の点に着目したい。 社会保障法の観点からは、「社会保険制度における税財源の役割」である。労働形態の多様化・不安定化のなかで、「フルタイムの正社員」を念頭に置き、「社会保険料を主たる財源」としてきた社会保障制度は転換期を迎えている。こうしたなか、フランスでは社会保険制度の財源に占める租税の割合の増大や、それと関連して失業保険の税財源化と保障対象の拡大(フルタイムの正社員以外も失業保険の対象に組み込む動き)がみられている。 労働法の観点からは、1.マクロン新政権下のもとで設けられた雇用職能パス(転職できるような職能を身に付けられる職業研修の提供と、公共職業安定所による必要なフォローを行う制度)と、2.就労活動個別口座(16歳以上の全労働者に付与される、多元的なキャリア展開の広まりに対応するための口座。労働時間数に応じてポイントが蓄積され、獲得したポイントは職業訓練の受講や早期退職に使用できる)である。 これら社会保障法・労働法においてフランスで見られているいずれの動きも、本研究に大きく関わるのに対し、わが国では詳細な先行研究がみられていないため、これらの詳細解明に努めたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究では、フランス法制の比較研究が重要であるところ、外国旅費を大きくしていた。しかし、コロナウイルスの感染拡大を受けて、1.フランスへの在外出張を見送ったことで外国旅費を使用せず、2.フランスの書籍についても到着が大幅に遅れていることが、次年度使用額が生じた理由である。 使用計画としては、コロナウイルスの影響が終息した際に、あらためてフランスへの在外出張を計画し、フランス人研究者と意見交換・議論を行うことや、フランスの関連制度にかかる文献・資料の購入に充てたいと考えている。
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