本研究では、「不安定雇用層に対する所得保障を就労による自立につなげる制度の構築」を検討した。そのなかで、フランスの職業訓練個人口座(CPF)、およびCPFと関連する職業転換計画(PTP)と集団的移行(TRANSCO)が「就労による自立」のための制度として注目される。 CPFは、被用者だけでなく、非正規労働者や求職者、障害を有する労働者といった「不安定雇用層」にも開設される口座である。そして、保持者の主導により、仕事の知識や技能の向上に利用できる金額がチャージされる。このチャージされた金額の使途が、公的資格が獲得できる職業訓練等に限定されている―それにより獲得した資格をもって、雇用可能性の高い職務に就くことにつなげていく―ところに重要なポイントがある。また、チャージの基準は、パートタイム労働者(女性が多い)に資するよう設計とされている。さらに、障害を有する労働者や非熟練労働者には、チャージ額が加重される。これらは不安定雇用層に対する配慮がとられていることを示している。 PTPはCPFの特殊な用法として定められ、TRANSCOは新型コロナウイルス感染症の影響で転職の関心と緊急性が高まったことを受けて、試験的に実施されている。この2つの政策の要諦は、被用者が「訓練期間中の休暇と報酬とが保障」されながら、職務変更を視野に入れた長期の訓練を受講できることにある。見方を変えると、労働契約は維持されながら、労使とも契約上の主たる義務である労働義務と賃金支払義務を一時的に免れるということである。特に、TRANSCOは、雇用が変化の影響を受けやすく脆弱とされる部門の被用者で、その地域で「発展の見込める」職務への就職を希望する者に、公的資格が獲得できる訓練を行い、解雇を回避しながら、別の職務に移行させる点で(一企業における)「雇用」ではなく、「キャリア」の安定を目指す特徴的な制度といえる。
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