研究課題/領域番号 |
17K03418
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研究機関 | 広島修道大学 |
研究代表者 |
伊永 大輔 広島修道大学, 法学部, 教授 (10610537)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 課徴金 / 独占禁止法 / 競争法 / 制裁金 |
研究実績の概要 |
独占禁止法規制の実効性を確保する上で、課徴金制度の役割は非常に大きなものとなっている。しかし、非裁量で硬直的な制度であるがゆえ、経済実態の急激な変化に伴って違反行為の抑止効果が発揮できない場面が増えてきた。このため、課徴金算定に当たり広範な行政裁量を導入する動きがあるが、法制上の限界や司法による裁量統制手法について研究上の蓄積が圧倒的に不足している。本研究は、このような学術研究の欠落に対する一つの回答について、主にEU競争法との比較法的視座から模索することを目的とするものである。 本研究目的を達成するために発表した研究成果の中でも本研究の成果を端的に表すものとして先ず挙げられるのは、独占禁止法制定70年を記念して行われた日本経済法学会の年次大会における本研究の学会報告である。すなわち、単著「課徴金制度の来し方行く末 ーその法的性格論が導くものは何か」(日本経済法学会年報37号)を公表し、学会ではパネリストとして本研究について討議・質疑応答も行った。報告内容は、課徴金に関する法改正内容を検証するとともに、学説・判例を踏まえて、現代の課徴金制度の法的性格を明らかにするとともに、将来の制度設計における法的制約や手続的波及効果について考察したものであり、本年度の研究計画どおりの内容となっている。 また、課徴金制度の将来課題について検討した「課徴金制度における基本的考え方 第12回・完 残された課題と将来像」(公正取引801号)や、課徴金に関する最新事例について事例評釈を行った「独禁法7条の2第1項にいう『当該役務』の範囲と実行期間」(ジュリスト1518号)なども科学研究費補助金による本研究の重要な成果の一つである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、現行課徴金制度の基本的性格の整理を具体的に進めることとしており、そのため、国内における問題点を整理しながら必要な一次資料や文献の収集作業及び調査分析を行ってきた。また、課徴金算定実務は外部に公開されないことから、公正取引委員会の担当職員や独占禁止法運用実務に精通する弁護士の知見を活用する必要もある。そのため、競争法実務研究会(東京・大阪)といった弁護士・企業法務担当者・公正取引委員会職員で構成する実務的な内容の研究会にも研究者として例外的に参加・報告し、課徴金に関する実務的な課題について情報交換してきた。 この点,前記「研究実績の概要」欄のとおり,課徴金制度をめぐる基本的性格等について,理論的一貫性を重視しながら,実務的課題までを視野に入れた分析結果を学会で報告・討議できており,おおむね順調に進展していると評価できる。 これは,これまでの研究蓄積を活かしながら,連載を契機に多くの有識者・実務家からコメント等をいただくとともに、その成果が高く評価されての学会報告であった。当初の想定以上のエフォートを本研究に注いできたことも要因となっていると考えられる。他方,比較法研究に関しては,十分な分析時間を確保することができず,現在のところ,まとまった研究成果は公表できていない(ただし,前記連載においてEU競争法における制裁金制度の調査結果を部分的に盛り込んでいる)。 全体的に見て,ある意味当初の計画以上に順調であるともいえるが,比較法研究の進捗状況を含め,改善点がないわけでもないと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は、比較法研究を本格化させ、英国オックスフォード大学競争法政策研究センター長のA. Ezrachi教授及び英国キングスカレッジのW. E. Kovacic教授(元米国連邦取引委員会委員長)の協力を得て、EUにおける制裁金算定に関する調査研究を行う。こうした調査成果をとりまとめ、外国法律雑誌に日欧の比較論文を投稿することにより、欧州内でも多くの専門家の理解を質し、議論を喚起することを考えている。 具体的には、英国を拠点として判例・文献調査を行い、両教授から最新の議論状況を伺うだけでも十分な研究上の示唆が得られることが予想されるが、より具体的かつ発展的な議論を欧米の有識者と行えるように、欧州大学院大学(ベルギー・ブリュージュ)やドイツ競争当局(ドイツ・ベルリン)が主催する競争法シンポジウムに可能な限り出席し、競争当局職員や競争法専門弁護士から実務・理論を伺うなど、現地で有識者から直接ヒアリング調査を行うことを計画している。 また、本研究は学術のみならず、実務的にも非常に関心の高いものである。したがって、最新判決等を適宜分析・評釈するとともに、そうした研究成果を発表しながら多くの研究者・実務家から意見をもらい、国内での議論を喚起するとともに、これらの意見をその後の研究に活かしていくことが研究の軌道修正にも効果的であり、また、相互発展を目指す学術研究として有効であると考えている。そのため、研究期間中に学術誌に発表するなどしてそこで提示された問題意識を発展・解消していくこととしている。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究代表者は、2016年度の1年間、英国オックスフォード大学の客員研究員として比較法的視点から精力的に研究したが、派遣前に準備していた日本法研究だけでは学術的な比較分析を行う上で十分とはいえず、帰国後の補完調査が必要だと判断し、調査に必要な研究費を本年度に残す工夫(研究期間の1年延長)をしていた。そのため、本年度はこの延長分の科学研究費補助金(本研究とは別)を優先して使用する一方、本年度で計画された国内調査には当初想定したよりも積極的な研究協力が得られたため、研究費用は当初予定したよりもかからなかった。これらの点が、次年度に使用額が生じた主な理由である。 次年度(2018年度)は、東京(東京経済法研究会、外国競争法事例研究会等)及び大阪(関西経済法研究会、実務競争法研究会等)に出張し、調査・報告・議論等を行うための旅費として使用するとともに、英国(ロンドン及びオックスフォード)、ベルギー・ドイツ等に海外調査研究に行くことを計画している。これは、研究会等で学者と問題意識を共有し議論を重ねるとともに、職員や競争法専門弁護士といった実務家(外国専門家を含む)とも意見交換し、現実の問題にも目配せしながら理論的解決を示していく計画に沿ったものである。 さらには、外国法律雑誌に研究成果を比較法的観点からまとめて論文投稿するとともに、研究に必要なパソコン等の周辺機器の購入も予定している。
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