本研究において、以下の内容が明らかとなった。 1) カナダでは、各州に労働領域の立法権限がある。賃金差別禁止について先駆的な州はオンタリオとケベックである。これらの州では、個別救済を主とする性差別禁止法だけでなく、プロアクティブ・アプローチと呼ばれるPay Equity Actを採用して、男女間の賃金格差を集団的に是正している。近年では、連邦もプロアクティブ・アプローチの施策を強化した。オンタリオ州と連邦では、男女間賃金格差の外部公開を使用者に義務づける法令もスタートした。 2) イギリスは、2010平等法により国内全域の男女間の賃金差別が禁じられている。同法により「同一の労働」「同等と位置付けられている仕事」「同一価値労働」については、男女間で賃金差をつけることが禁止されている。男女間賃金格差が正当化されるのは(使用者抗弁)、組織再編成等で職務が変化した労働者に賃金水準を維持する場合(レッド・サークリング)等である。他方、賃金交渉単位の違いや労働協約に基づく賃金設定は賃金格差正当化理由にはならない。現在、労働者250人以上規模の事業主に賃金情報公開義務が課せられている。 3) アメリカは、公民権法第7編で国内の性差別を禁止している。これに加えて同一賃金法も「同一労働」に従事する男女間の賃金格差を原則禁止する。「同一労働」か否かは、職務の本質的な部分に関してスキル、労働負荷、職責が同じかどうかで審査される。使用者の抗弁には、先任権制度、成果賃金、歩合給等が認められている。コロラド州等では賃金情報公開義務を設定する動きがあるが、全国的な動きにはなっていない。 本研究は、個別訴訟における同一価値労働同一賃金原則の利用状況、男女間賃金格差の集団的な是正における同原則の意義を明らかにした。三国の賃金格差の正当事由の差異については、現在整理中であり、適宜論文で発表する予定である。
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