本研究は、わが国の現行刑法典および特別刑法に存在している常習犯規定を研究対象とし、諸外国との比較法研究を基礎として、わが国の常習犯加重規定が存置に耐え得るものであるかについて批判的に検証するという視点から、当該規定が孕む問題点を抉り出し、あるべき常習犯対策を模索するための指針を提示することを目的とするものである。 常習犯ないし常習犯規定に関しては、これまでのわが国の刑事法学において重要な先行研究が数多く存在するが、それらの大半は、刑法改正論議が華やかであった1970年代前後に集中しており、常習犯問題は21世紀を迎えた近時の刑事法学において考察の対象とされることが少なくなっている。しかし、常習犯研究の現代的意義が失われたわけではない。 本研究は、近時刑事法学において議論の対象とされることがほとんどなくなった常習犯規定の合理性について、刑法理論的側面および刑事政策的側面の両側面から再検討するものである。具体的には、刑法学における責任論と刑罰論の観点から、とりわけドイツ語圏刑法(学)との比較法的研究手法を用いながら、常習犯規定の解釈と運用の実態、常習犯加重がもたらす常習犯予防にとっての効果如何を実証的に明らかにすることによって、常習犯規定の合理性を検証するものである。そして、常習犯加重規定の存廃についての態度決定を明確にし、諸外国における常習犯対策を仔細に検証することによって、あるべき常習犯対策を模索するための指針を提示することに本研究の意義が見い出される。 「研究実施計画」において、本研究の最終年度は、平成29年度と平成30年度の研究成果を踏まえた上で、現行刑法の常習犯規定の合理性を検証し、あるべき常習犯対策を模索するための指針を提示することを目指していた。その成果の一部を、論文(「常習犯規定に関する一考察(1)」法政論叢72号1頁)として公表した。
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