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2019 年度 実施状況報告書

公判前整理手続・公判手続を通じた証拠法規制のあり方

研究課題

研究課題/領域番号 17K03424
研究機関東京大学

研究代表者

成瀬 剛  東京大学, 大学院法学政治学研究科(法学部), 准教授 (90466730)

研究期間 (年度) 2017-04-01 – 2021-03-31
キーワード証拠法 / 公判前整理手続 / 公判手続 / 証拠の関連性
研究実績の概要

今年度前半は,まず,前2年間にやり残した比較法5か国の検討を補足的に行った。特に,本研究の目的との関係で有益な示唆を与えると判断したイギリスとオーストラリアの規律及び実務動向について,関連文献の精読を通じて,詳細な検討を加えた。その上で,英米法諸国(アメリカ・イギリス・カナダ・オーストラリア)における争点及び証拠の整理に対する規律・運用の共通点と相違点を明らかにし,各国の相違を生じさせる理論的・制度的根拠について考察した。
今年度後半は,日本における公判前整理手続実務の最新動向を把握するために,近時公刊された司法研修所編『裁判員裁判において公判準備に困難を来した事件に関する実証的研究』(法曹会,2018年11月)の内容を詳細に検討するとともに,法曹三者(裁判官・検察官・弁護士)に対するインタビュー調査を実施した。その上で,今年度前半までに得られた5か国の比較法研究の成果を日本における最新の問題状況に接合させて,さらに考察を深めた。
そして,今年度の最終的な成果として,「『証拠の関連性』概念による主張と証拠の整理」と題する論文を公表し(法律時報92巻3号5頁〔2020年3月〕),証拠の関連性概念を公判前整理手続における主張と証拠の選別基準として用いることにより,充実した公判審理を実現するために必要十分な争点及び証拠の整理が可能となることを明らかにした。
なお,本論文は,前記司法研究による「裁判所の証拠採否権限に基づく主張と証拠の整理」という提言を,証拠の関連性概念によって理論的に基礎づける試みでもある。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

3: やや遅れている

理由

本研究の目的は,以下の2つに分けられる。第1に,近時の判例・裁判例によってその運用が問題視されている公判前整理手続について,英米法諸国及び大陸法国における争点及び証拠の整理に対する規律・運用との比較法的考察を行い,証拠の関連性を基準とした争点及び証拠の整理のあり方を具体的に提示すること,第2に,公判手続における証拠制限の可能性を踏まえて,公判前整理手続における証拠法規制の役割を明らかにすることにより,手続の進行に応じた動的な証拠法理論を発展させることである。
今年度の研究成果によって,第1の目的をほぼ達成することができた。具体的には,まず,昨年度までの比較法5か国の検討結果を前提に,イギリスとオーストラリアの実務動向について補足的な考察を加え,英米法諸国(アメリカ・イギリス・カナダ・オーストラリア)における争点・証拠の整理に対する規律・運用の共通点と相違点を明らかにした。次に,文献調査及びインタビュー調査を通じて,日本における公判前整理手続実務の最新動向を把握し,5か国との比較法的考察を行った。その上で,論文において,証拠の関連性を基準とした争点及び証拠の整理のあり方を具体的に提示した。
ただ,第1の目的達成に注力した結果,本来は今年度が最終年度であったにもかかわらず,第2の目的については達成することができなかった。それゆえ、現在までの進捗状況は「やや遅れている」と評価した。
幸い,研究期間の1年延長が認められたので,来年度は第2の目的の達成に向けて尽力することとしたい。

今後の研究の推進方策

来年度の前半は,近時公刊された司法研修所編『裁判員裁判において公判準備に困難を来した事件に関する実証的研究』(法曹会,2018年11月),及び,司法研修所編『裁判員裁判と裁判官――裁判員との実質的な協働の実現を目指して』(法曹会,2019年12月)の内容を,手続の進行(公判前整理手続~公判手続)に応じた動的な証拠法理論の在り方という視点から仔細に分析する。
その上で,前3年間の全ての考察も踏まえて,公判前整理手続後の公判手続において生じうる証拠制限の理論的根拠及びその具体的内容を明らかにする。また,公判手続における証拠制限の可能性を踏まえて,当事者が公判前整理手続において主張すべき内容及び請求すべき証拠の範囲を示す。
来年度の後半は,法曹三者(裁判官・検察官・弁護士)に対するインタビュー調査を再度実施して,本研究が提唱する「証拠の関連性概念による主張と証拠の整理」という構想が,公判前整理手続の実務に耐えうるものであるか否かについて検証し,必要に応じて,私見を修正する。その際は,直接証拠の信用性が問題になる事案(直接証拠型の事案)と複数の間接証拠の推認力を積み上げていく事案(間接証拠型の事案)の区別を意識する。
また,新型コロナウィルスの感染状況を見極めつつ,可能であれば,アメリカ出張を実施し,アメリカ人の研究者・実務家から本研究の成果についてフィードバックをもらう。海外出張が不可能となった場合には,代替手段として,オンラインでのインタビュー調査を実施する予定である。

次年度使用額が生じた理由

次年度に使用する予定の研究費が生じたのは,以下の2つの理由による。第1に,2020年3月にアメリカ出張を行い,アメリカ人の研究者・実務家から本研究の成果についてフィードバックをもらう予定であったが,新型コロナウィルスの感染拡大により,今年度中の実施が困難となったことである。 第2に,司法研修所が本研究に直接関係する研究成果を複数公表したため,それらを踏まえた今後の実務の変化を注視するべく,あえて物品費の予算執行を抑えた面もある。
次年度の研究費の使用計画は,以下の通りである。まず,日本の公判前整理手続に関する議論の最新動向を把握するため,日本の図書を22万円購入する。また,日本及び諸外国の証拠規律を検討するには判例や論文を大量に検討する必要があるので,データベース資料の印刷代及び図書室における文献複写代として5万円を使用する。さらに,アメリカへの出張費用として約40万円を充てる。この出張では,公判前における争点及び証拠の整理のあり方について現地研究者・法曹関係者と意見交換をする予定である。
なお,新型コロナウィルスの感染状況によっては,次年度のアメリカ出張も断念せざるをえないかもしれない。その場合には,代替手段としてオンラインでのインタビュー調査を実施することとし,出張費として確保していた約40万円はアメリカ・イギリス・カナダ・オーストラリアの刑訴法・証拠法関連図書の購入に充てる。

  • 研究成果

    (4件)

すべて 2020 2019

すべて 雑誌論文 (3件) 学会発表 (1件)

  • [雑誌論文] 伝聞供述(上)――証人尋問・被告人質問のあり方2020

    • 著者名/発表者名
      成瀬 剛
    • 雑誌名

      法学教室

      巻: 472号 ページ: 107-115頁

  • [雑誌論文] 伝聞供述(下)――証人尋問・被告人質問のあり方2020

    • 著者名/発表者名
      成瀬 剛
    • 雑誌名

      法学教室

      巻: 473号 ページ: 103-111頁

  • [雑誌論文] 「証拠の関連性」概念による主張と証拠の整理2020

    • 著者名/発表者名
      成瀬 剛
    • 雑誌名

      法律時報

      巻: 92巻3号 ページ: 5-11頁

  • [学会発表] 児童虐待に関する刑事手続上の課題――証拠法からのアプローチ2019

    • 著者名/発表者名
      成瀬 剛
    • 学会等名
      日本刑法学会第97回大会・ワークショップ11「児童虐待とその刑事的対応」

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公開日: 2021-01-27  

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