今年度の前半は,近時公刊された司法研修所編『裁判員裁判において公判準備に困難を来した事件に関する実証的研究』(法曹会,2018年11月),及び,司法研修所編『裁判員裁判と裁判官――裁判員との実質的な協働の実現をめざして』(法曹会,2019年12月)の内容を,手続の進行(公判前整理手続~公判手続)に応じた動的な証拠法理論の在り方という視点から仔細に分析した。また,アメリカ・カリフォルニア州の刑事裁判官2名に対してオンラインでのインタビュー調査を実施し,アメリカにおける公判準備の実務について学ぶとともに,本研究の成果に対する有益なフィードバックを得た。 今年度の後半は,「正当防衛の制限が問題となる事案の公判前整理手続のあり方」をテーマとした法曹三者の勉強会に参加して,本研究が提唱する「証拠の関連性概念による主張と証拠の整理」という構想が公判前整理手続の実務に耐えうるものであるか否かを検証した。また,「取調べの録音・録画記録媒体」という特定の証拠を素材として,公判前整理手続・公判手続を通じた動的な証拠法規制のあり方を具体的に考察した。 研究期間全体を通じて実施した研究の成果は,下記の4点である。第1に,公判前整理手続後の公判手続において生じうる証拠制限の理論的根拠及びその具体的内容を明らかにした。第2に,公判手続における証拠制限の可能性を踏まえて,当事者が公判前整理手続において主張すべき内容及び請求すべき証拠の範囲を示した。第3に,関連性概念を主張・証拠の選別基準として用いることにより,充実した公判審理を実現するために必要十分な争点・証拠の整理のあり方を明らかにした。第4に,正当防衛の制限が問題となる事案を素材として,証拠法の視点を踏まえた争点・証拠の整理の具体的なモデルを示すとともに,取調べの録音・録画記録媒体を素材として,動的な証拠法規制の具体例を示した。
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