研究課題/領域番号 |
17K03425
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研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
葛野 尋之 一橋大学, 大学院法学研究科, 教授 (90221928)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 起訴猶予 / 訴追裁量 / 再犯防止 / 無罪推定 / 準司法官 |
研究実績の概要 |
現在、検察官の起訴猶予に社会内の福祉的支援を結びつけようとする法改正が企画されている。しかし、このことは、刑事司法の原則や刑事手続の基本構造との関係において、深刻な問題をはらんでいる。 第1に、再犯防止措置の必要性・有効性に関する調査および措置は、起訴前、裁判所の有罪認定前に行われることになることから、それらを正当化するために、被疑者の同意が必要とされているものの、この同意の任意性は希薄なものとならざるをえない。これらの調査・措置は、検察官の起訴・不起訴の決定と結びついているから、被疑者に対して、それらに同意するよう、起訴の威嚇による心理強制が働くことになる。第2に、裁判所の有罪認定に先立ち、必然的に被疑者のプライバシーの深部にまで及ぶ調査を行い、再犯防止のための積極的処遇を行うことは、無罪推定の法理に抵触する。第3に、積極的な再犯防止措置を、法律の規定に基づくことなく、起訴猶予の「条件」として実質的に強制することは、適正手続上の重大な疑義を生じさせる。第4に、再犯防止措置に関する専門機関による調査がなされることに加え、捜査機関による詳密な情状調査を含む被疑者取調べが行われることになると、起訴・不起訴決定前の捜査手続が肥大化する可能性があり、また、起訴猶予の積極活用により、起訴がますます厳選されることになると、公判中心主義がいっそう後退する結果となる。第5に、再犯防止措置と結びつけた起訴猶予の決定は、検察官が、自らのなした実質的な有罪認定に基づき、再犯防止のための積極的処遇を決定することほかならず、そのような積極的処遇の決定を検察官に委ねることは、旧刑訴法下のように、裁判所と同格の立場にあって裁判所の職権行使を補助するという検察官の「準司法官」的性格を承認することを意味するものであって、現行刑訴法における捜査・訴追機関たる当事者としての検察官の基本的地位・役割と整合しない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
イギリス法の比較研究について、現地調査を実施したが、文献調査の進捗が思わしくない。ただし、刑の宣告猶予制度については、研究を進捗させた。
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今後の研究の推進方策 |
イギリス法の研究を積極的に進めたい。「条件付警告」制度の存在が、刑事弁護に対してどのような影響を与えたかについて、文献研究を進めたうえで、あらためて関係者のインタビューなど、現地調査を実施したい。 日本の刑事弁護実務において、近時、先端的な実務家から、「原則として黙秘」という弁護方針が打ち出されており、急速な広がりをみせている。検察官の広汎な訴追裁量権限に基づく起訴猶予の積極活用という実務が、このような刑事弁護のあり方にどのような影響を与えるか、さらに起訴猶予に再犯防止措置を結びつける立法がなされた場合、その影響はどうかについて研究を進めたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
パーソナルコンピュータなどの大型物品の購入を次年度以降に持ち越したため。次年度には、物品購入のほか、国内調査および外国調査を実施するための旅費の支出が多くなる予定である。
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