2019年度においては、2019年9月に実施した韓国調査と同年11月に実施した島根県弁護士会における調査のほかは、公務多忙のため、文献研究を中心とした活動にとどまらざるを得なかった。しかしながら、これらの調査を通じて、被害者支援に当たる弁護士が刑事司法制度の意義と限界を熟知したうえで、現在ある被害者保護のための諸制度を活用することが極めて重要であることが分かった。適正手続と両立する被害者支援の在り方を探求するという本研究の問題意識の適切性を検証するうえで、弁護士に対するインタビュー調査は、2017年度、2018年度実施分も含め、有益であった。とりわけ、韓国調査においては、インタビュー調査をしたいずれの弁護士からも、被害者支援の活動をする際に、刑事司法制度の限界を被害者等に説明することに努めている、との回答があり、被疑者・被告人に対する権利保障自体に敵対的な姿勢は見られなかった。 この点は、2018年度に実施した台湾における調査においても確認できたことであった。日本においても、比較的若手の弁護士に対するインタビュー調査では、被害者支援と刑事弁護のいずれにも携わり、被害者支援と刑事弁護の対立という意識を持たない傾向がみられた。 2017年度から2019年度の間に実施した国内調査、台湾、韓国における調査のいずれにおいても、被害者支援に関して現行制度の不十分な点を聞いたが、日本とこれらの国々において共通していたのは、簡便で可視化された手続による十分な補償ないし賠償の実現を求める意見と、弁護士による支援のほかに、被害者保護団体や行政機関との連携が必要であるとの意見であった。
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