研究課題/領域番号 |
17K03430
|
研究機関 | 香川大学 |
研究代表者 |
平野 美紀 香川大学, 法学部, 教授 (70432771)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 精神障害 / 再犯防止 / 社会内処遇 / オランダ / 刑事政策 / 医療観察法 / 社会復帰 / 触法精神障害者 |
研究実績の概要 |
2016年12月に再犯防止推進法が施行され、2017年12月には再犯防止計画が策定されるなど、我が国おいて再犯防止は最も重要な刑事政策上の 課題のひとつである。特に、精神障害を有する触法者については、社会的弱者でもあり、再犯率が高いことから、刑事司法の入り口段階、あるいは自由刑が科された場合には出所後において、その支援の在り方や治療の継続についてが大きな鍵となることはもとより、社会内で精神科治療を継続することができるのか、その支援の在り方が重要な課題となる。 今年度は、(1)薬物依存等を有する者に対する政策について、オランダにおける社会内処遇という観点から資料収集を中心に研究を行い、オランダに関して1本、日本に関して1本、論文にした。(2)オランダにおける性売買や人身売買の加害者と被害者に対する政策について、オランダにおいて調査と資料収集を行い、日本の学会で報告した。(3)昨年度より引き続き継続して、国内の刑事施設、少年院、更生保護施設、保護観察所、精神保健福祉センター、医療観察法病棟、地域定着支援センター、等刑事司法関連施設および社会内の治療継続の鍵を握る関係施設等に、訪問調査を複数回行い、関係者等へのインタビューや意見交換を通して我が国における社会内処遇の現状の把握につとめ、また、資料を収集して、シンポジウム等で発表した。(4)オランダ国内の関連施設(少年院、精神科病院、刑務所)への訪問時、および刑事処分制度の研究者とのインタビュー時に、国内で得られた知見をもとに、オランダでの触法者の社会復帰や支援、治療継続とについて、意見交換を行い、論文執筆の資料等の収集を行った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
第1に刑事司法制度における薬物使用者の処遇を中心に、刑の一部執行猶予という新しい制度導入後、出所後の社会内処遇と治療継続という観点からの課題、第2に国内における再犯防止政策と出所者等への支援について、第3に医療観察法という、刑事司法と精神医療との連携による施設内および社会内での処遇と治療継続について、という3つの方向性から、関係施設等への訪問や関係者との意見交換、資料収集によって、現状と今後の課題について、検討を進めてきた。再犯防止の観点、さらには多様性を重要とするこれからの我が国においては、施設内処遇の重要性に増して社会内処遇制度が非常に重要となる。つまり保護観察制度がこれまで以上に重要な役割を担うことが明らかになってきた。その点について、特に先進的なオランダを比較対象として、オランダの保護観察制度と、我が国には存在しないがオランダ独特の社会内での刑罰制度(社会奉仕命令)について研究を進め、触法精神障害者への支援体制について検討を続けてきた。 加えて、犯罪数が大幅に減少している中で再犯率が下がらない大きな原因のひとつが、窃盗犯罪が減少しないことにある。そして実務においては、多くの事例においてクレプトマニアであるとの主張がなされているようであり、一方で窃盗犯の再犯率の高さが喫緊の課題として挙げられる。この分野については、実態や精神科医療からのアプローチについて研究が進められる必要がある。また諸外国での処遇がどのように行われているのか、そもそも、窃盗犯罪についての取り扱いが、国によって大きく異なることから(たとえばアメリカでは客体の財産的価値によって犯罪の類型が異なる)、裁判実務の現状や処遇の現状、精神科医療からのアプローチについてもほとんど知られていないことがわかってきた。
|
今後の研究の推進方策 |
薬物使用者の施設内処遇および社会内処遇と治療の継続、また医療観察法における施設内処遇と社会内処遇と治療の継続、について、再犯・再発防止を念頭におき、関係施設訪問や資料収集を中心に引き続き研究を続ける。 さらに今年度は最終年度として、集大成を目指して、比較対象としているオランダにおける社会内処遇について、再度、オランダを訪問して統計や資料の収集と、関係者との意見交換を通して実態の把握に努める。 加えて、オランダにおいては、今年度新たに課題をして浮かびあがってきた、クレプトマニアについて、オランダにおける財産犯の犯罪類型について研究を進めたうえで、現地で、統計等の調査、捜査段階と(起訴されることがあるのであれば)裁判段階、さらにはいわゆる入口支援等の実態、保護観察との連携、科される刑罰や刑事処分について調査を行う。また、クレプトマニアのひとたちの多くは摂食障害であることが知られており、日本国内およびオランダの精神科医の協力も得て、国内およびオランダにおける摂食障害処遇についても調査を行う。 また、窃盗犯以外の、(我が国でいう医療観察法の対象行為のような)重大な犯罪を行った場合の処遇について、オランダでは、刑法の定める刑事処分(TBS処分)で特別な治療を実施しているので、本処分に関する統計と実態、現状と課題についても、調査を行う。
|