研究課題/領域番号 |
17K03430
|
研究機関 | 香川大学 |
研究代表者 |
平野 美紀 香川大学, 法学部, 教授 (70432771)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 精神障害者 / 社会内処遇 / 刑罰制度 / 再犯防止 / オランダ / TBS処分 |
研究実績の概要 |
わが国では犯罪数が大幅に減少している中で、窃盗犯罪が減少せず、窃盗犯の再犯率の高さや、実務においては摂食障害を有する累犯者への治療的アプローチが喫緊の課題として挙げられることがわかった。そこで本年度は、精神障害者が違法行為を行った場合の治療継続について、先進国であるオランダに着目した。摂食障害や窃盗累犯者について精神医学及び刑事司法の分野においてどのようなアプローチがされているのかを中心とした。 精神医学においては事前の文献研究でもほとんど見つからなかったうえ、摂食障害専門治療施設でのインタビューで、わが国において議論されているような窃盗累犯と摂食障害とを結びつける考え方がほとんどないことが鮮明になった。さらに、刑事法的には、累犯者のためのISD処分(刑事処分)のほか、特定の場合に精神障害者に付すTBS処分があることを文献研究として研究したうえで、運用現場として、検察庁および責任能力判定施設、通常の刑務所と治療重点施設等を訪問し、裁判官、検察官、判定医、刑務所処遇関係者、治療施設処遇者等関係者へのインタビューやデータ収集をした。TBS処分とは、4 年以上の自由刑を最高刑として有する犯罪(強盗・強制性交・殺人等)や特定の重大犯罪(飲酒運転による重大な身体の傷害の惹起、脅迫等)を行った精神障害者に対して、特に公共の安全を確保する必要がある場合に、当該本人の人格、当該犯罪の重大性または過去の重大犯罪に関しての有罪判決の頻度等を考慮に入れて、刑事裁判所が決定・命令する処分刑罰の後に処遇するものである。そして、刑事司法の分野でも窃盗累犯と摂食障害とを結びつける考え方やそのような主張がほとんどされていないこと、精神障害者への治療を継続するために多職種で連携して法を運用していることが明らかになった。 そして、これまでの調査研究から、本年度は3本の論文公刊を行った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
文献的な研究は進んだが、2019年度夏の調査後の学会報告等に関して、意見交換等を計画していたが、年度末にコロナの影響で出張が不可能となり、また学会も延期となった。最後の総括部分について、やや遅れている。
|
今後の研究の推進方策 |
オランダで行われている、精神障害者への治療的処分であるTBS処分は、厚労省と司法省が連携し、段階的に社会内処遇へと移行しながら、社会内処遇に関しては特に保護観察官の役割が大きいなど、わが国の医療観察法と類似の点も多く参考になる点が多い。しかし、わが国の医療観察法の法的枠組みと異なり、オランダにおいては刑事司法の枠組み内で運用され、TBS 施設は行刑施設の一部である。刑事司法の枠組みの中に置かれているため、法的根拠については、主に刑法と行刑法、TBS特別法にある点も大きく異なる。TBS特別法の現在改正予定の部分を除き、関係条文の参照等はおおよそ終わったので、実地調査で収集した資料とデータで、治療現場に関して、精神医学の専門家から専門的知見をいただきながら、総括に向けて進めていく。2019 年 9 月 2 日訪問時には、オランダ全国11 施設あり、セキュリティーによる分類があり、治療や社会復帰などに関しては、膨大な予算と豊富なスタッフが充実したケアを行っていること、責任能力判断の方法などわが国においても参考になる点が多いからである。最終的な報告として、まずは司法精神医学会(2020年6月予定から延期)での報告とそれらの過程で得られた知見から、総括として「オランダにおける司法精神医学の枠組み(仮)」として論文をまとめているところである。
|
次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナの影響により、学会報告に向けて予定していた研究打ち合わせが延期されたため。
|