犯罪数が激的に減少している一方で、わが国においては刑務所入所者の社会復帰は極めて困難であり、再犯率が低下しない。障害等を有しているとさらに課題は大きい。特別調整等での地域定着支援センターによる帰住支援など出口支援は充実してきているが、精神保健福祉法26条のよる通報の増加に比して、医療機関にも措置入院にもつながりにくいため、治療的支援の継続は困難である。一方で、違法行為を行った者が、精神障害等を有している可能性について、刑事司法の現場での認識が高まり、その場合には更生支援計画が準備されたり実刑以外の選択肢が考慮されるなど、支援の必要な対象者とみなされる動きは確実に広がってきた。また、重大な他害行為を行った対象者への強制処遇を定める医療観察法が施行されて15年が経過し、社会復帰後の治療継続が大きな課題であることがわかってきた。 オランダは100年以上にわたり触法精神障害者に対してはTBS処分と呼ばれる刑事処分による処遇制度を運用してきたが、長期化する入院を含めたさまざまな課題に対して、2020年、大規模な法制度改革が行われた。そもそも、オランダは、自己決定を重視して、本人の権利制限を最小限にすることを重視する国であるが、精神疾患や依存等を含む精神障害・知的障害を有する者に対して、社会の安全を守りつつ、本人の社会復帰を推進し再犯の可能性を減少させるため、新たに、法の枠組みの中で、自己決定を制限する形で強制的な措置を可能にした。一方で、入院処遇の期間には、社会復帰を目的として、治療のほか帰休制度を積極的に利用し、被収容者本人の権利擁護にも配慮する制度を継続している。また、社会の中での治療に関しても、これまでの強制入院に関する法を廃止して、新たに強制的な介入を可能にしている。 社会の安全と精神障害者の権利擁護のバランスをとりつつ、社会内での治療等の継続的支援のあり方について研究した。
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