研究課題/領域番号 |
17K03433
|
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
井上 宜裕 九州大学, 法学研究院, 教授 (70365005)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 保安処分 / 再犯予防 |
研究実績の概要 |
本研究は、各保安処分の対象者別効果を測定し、総合的再犯予防策の具体化を図ろうとするものである。平成29年度は、フランスにおける保安処分の実施状況を中心に、文献調査、並びに、実態調査を行った。 フランスの実務において、近時注目されているのは、いわゆる保護観察刑を意味する「刑事強制」、及び、必要的仮釈放として機能しうる「強制下釈放」の2つである。しかしながら、このいずれもが十分に機能していない現状がある。 とりわけ、2017年から対象犯罪を軽罪全般に拡大した「刑事強制」にあっては、適用例の拡大が期待されたが、ほとんど当該改正は効果を持たず、同制度の運用は今なお低調なままである。「強制下釈放」においては、従来の「刑の修正」の対象とならなかった者につき仮釈放等の可能性を追求するもので、当初予想されたとおり、多くの障害を前に足踏みをしている状況である。両制度の運用状況が活発でない理由については、パリのサンテ刑務所の改装等、外在的要因もあるが、根本的な要因は、やはり、人的資源の不足にあろう。両制度の導入以前から、各社会復帰・保護観察官の加重負担は深刻な状態であった。両制度の導入に伴って、社会復帰・保護観察官の増員がはかられたが焼け石に水で、人員不足は何ら解消されていない。 さらに、両制度に関して、エマニュエル・マクロン仏大統領が廃止方針を掲げるなど、フランスの社会内処遇をめぐる状況は流動的である。 他方、究極の保安処分ともいえる、保安監置の実施状況も低調である。こちらについては、マクロン大統領は、廃止に言及しておらず、テロ対策として積極的に活用するのではないかとの懸念もある。比較法研究を進める上でも、これらの状況は今後、注視していかなければならない。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、各保安処分の対象者別効果を測定し、総合的再犯予防策の具体化を図ろうとするものであり、初年度は、各保安処分の制度概要を把握し、対象者別効果測定の前提となる部分を集中的に扱い、以後の検討の基本的視座を獲得することを目指した。その結果、期待される成果は上げることができたと考えている。 初年度である平成29年度は、フランスの状況を中心に検討した。フランスにおいて、「刑事強制」及び「強制下釈放」といった、再犯予防に直結する、社会内処遇の根幹に関わる制度に動きがあったため、こちらの動向の把握に注力する必要があったためである。 当初の予定では、初年度には、ドイツの状況把握にも着手する予定であったが、上述の事情から、フランスの検討を優先した。 もっとも、フランスに関しては、次年度の予定であった運用状況の分析にも踏み込むことができたため、研究計画全体から見れば、若干、検討の順序に前後があったものの、おおむね順調に進展しているといえる。
|
今後の研究の推進方策 |
今後の研究は、さしあたって、多様化された保安処分の運用状況及び理論的整理について継続して検討を加える。初年度の対応が不十分であったドイツの状況も踏まえつつ、比較法的視座の確立を目指す。他方で、刑罰と保安処分の関係についても改めて精査する必要があるため、この点にも留意しつつ、検討を進める。以上の考察によって、各保安処分の法的性質及び他の措置との関係の明確化を図る。 その上で、各保安処分の対象者類型の分析、及び、対象者類型ごとの効果測定に取りかかる。少年、高齢者、精神障害者、身体障害者等のカテゴリー別の特性を加味しつつ、とりわけ、これまで少年を中心に展開されていた「要保護性」の発想精神障害者、身体障害者等、他の対象者類型にも拡大することが可能かどうかについて検討する。これに関連して、「要保護性」の概念が、予防効を追求する保安処分に対する抑制原理として機能しうるか否かについても考察を行う。かくして、この「要保護性」の視点の下、各保安処分の対象者類型ごとの効果測定を実施する。 最終的には、再犯予防の実質化を目指すべく、以上の考察を踏まえた上で、総合的再犯予防策の構築につき、各保安処分の刑事司法全体における位置づけを明示した形で、より具体的な提案を行う。 なお、本研究の推進方策として、研究会報告及び学会報告を最大限活用する。研究の進捗状況及び暫定的結論を各研究会で報告、質疑応答を通じて各会員から示唆をえる予定である。これにより、多方面からの意見を吸収し、本研究を効率的に進めていきたいと考えている。
|
次年度使用額が生じた理由 |
海外出張にかかる費用につき、為替レートの変動、航空運賃の変動等の影響で生じた差額。 誤差の範囲であり、次年度に適切に執行する予定である。
|