研究課題/領域番号 |
17K03433
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
井上 宜裕 九州大学, 法学研究院, 教授 (70365005)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 保安処分 / 保安監置 / 再犯予防 |
研究実績の概要 |
本研究課題である「保安処分の対象者別効果測定と総合的再犯予防策の具体化に関する研究」の遂行に当たって、2018年度は、保安監置の現状を中心に比較法的検討を行った。本研究の特徴は、個々の保安処分の効果測定において、現場の状況を実際に視察し、運用状況を確認する点にある。 2018年度には、これまでも申請していたもののなかなか実現しなかった、フレーヌにある保安センターを視察することができた。ここは、保安監置対象者が収容される施設で、その内部は、ネットの接続環境はもちろんのこと、キッチンや運動設備まであり、基本的に何ら不自由なく生活できる環境が整えられていた。これは、保安監置対象者が受刑者とは異なる法的地位にあることから導出される帰結とされる。 このような充実した設備であるが、2008年法の施行による保安監置制度の発足から10年以上が経過した現在まで、ここに収容された者は、わずか延べ13人であった。もっとも、これまでの収容者は、いずれも、保安監視上の義務違反によって保安監置になった者であり、特殊なケースといえる。それ故、対象犯罪で15年以上の刑期を満了した後に保安監置に付される原則型に則って、収容される者が今後増える可能性がないわけではない。 しかしながら、同所のセンター長によれば、司法官は概して保安監置に反対であり、保安監置の言い渡しは今後もそれほど増えないのではないかとの見通しであった。 このように、立法者と具体的手続に関与する実務者との間には、大きな溝があり、保安処分の効果測定においては、このファクターも重要であることが確認できた。今後は、この点も踏まえつつ、さらに細かく対象者別の考察を展開していく計画である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、各保安処分の対象者別効果を測定し、総合的再犯予防策の具体化を図ろうとするものであり、2018年度は、各保安処分の制度概要を把握し、対象者別効果測定を行うべく、保安処分の中でも、究極型といえる、保安監置をについて集中的に取り扱った。その結果、期待される成果は上げることができたと考えている。 ドイツの状況についても、文献調査を中心に進めているところではあるが、2018年度には、これまで叶わなかった、フレーヌ保安センターの視察が実現したことから、フランスにおける保安監置の動向、実際上の再犯予防効の測定に力点を置くこととなった。これにより、ドイツにおける保安処分をめぐる問題状況を比較分析する際の視座が得られたので、今後の比較法的検討はより円滑に進むことが予測される。当初の予定では、ドイツの状況把握をさらに進める予定であったが、上述の事情から、フランスの検討を優先した。 上述の通り、フランスに関しては、具体的な運用状況の分析にも踏み込むことができたため、研究計画全体から見れば、若干、検討の順序に前後があったものの、おおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究においても、多様化された保安処分の運用状況及び理論的整理について継続して検討を加える。ドイツにおける保安処分をめぐる背景的事情を踏まえつつ、ドイツからみた比較法的視座の確立を目指す。また、刑罰と保安処分の関係についても、議論状況に若干の動きが見られるため、引き続き精査しなければならない。この点にも留意しつつ、検討を加える。 以上の考察を通して、各保安処分の法的性質及び他の措置との関係の明確化を図る。そして、各保安処分の対象者類型の分析、及び、対象者類型ごとの効果測定を具体的に展開する。少年、高齢者、精神障害者、身体障害者等のカテゴリー別の特性を加味しつつ、とりわけ、これまで少年を中心に展開されていた「要保護性」の発想精神障害者、身体障害者等、他の対象者類型にも拡大することが可能かどうかについて検討する。これに関連して、「要保護性」の概念が、予防効を追求する保安処分に対する抑制原理として機能しうるか否かについても考察を行う。かくして、この「要保護性」の視点の下、各保安処分の対象者類型ごとの効果測定を実施する。 最終的には、再犯予防の実質化を目指すべく、以上の考察を踏まえた上で、総合的再犯予防策の構築につき、各保安処分の刑事司法全体における位置づけを明示した形で、より具体的な提案を行う。 なお、本研究の推進方策として、研究会報告及び学会報告を最大限活用する。研究の進捗状況及び暫定的結論を各研究会で報告、質疑応答を通じて各会員から示唆をえる予定である。これにより、多方面からの意見を吸収し、本研究を効率的に進めていきたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
為替レート等の変動による誤差の範囲である。使用計画に変更はない。
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