研究課題/領域番号 |
17K03433
|
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
井上 宜裕 九州大学, 法学研究院, 教授 (70365005)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 保安処分 / 保安監置 / 再犯予防 |
研究実績の概要 |
本研究課題は、各保安処分の対象者別効果を測定し、総合的再犯予防策の具体化を指向するものであるが、2019年度は、これまでの研究を踏まえて、社会的反作用の対象者別効果の検討に着手した。 上記検討をする上で、その結果に影響をもたらしうる、大きな動きがフランスで見られた。その1つが、2018年から2022年までの計画及び司法改革に関する2019年3月23日の法律第2019-222号で示された、刑罰改革である。この法律は、刑法典及び刑事訴訟法典の度重なる改正により、刑罰に関する法が複雑化し、判読不可能な状態にあるとし、①刑罰法を判読可能にし、刑罰に意義を付与すること、及び、②個別化の要請を充たしつつ、迅速な執行を促進することで、刑罰の効力を強化することを目指している。具体的改正点としては、①研修刑の統一及び単純化、②刑事強制の保護観察刑への発展的解消、③保護観察の強化、④電子監視付在宅拘禁の主刑化、⑤軽罪裁判所単独判事の権限強化、⑥電子監視付居住指定等の勾留代替措置の改善、⑦自由剥奪刑の前提となる人格調査の拡充、⑧刑の修正の促進等である。 もう1つは、上記2019年法を授権法として、目下、立法手続が進められている、少年刑事司法法典である。現行のいわゆるフランス少年法は、犯罪少年に関する1945年2月2日のオルドナンス第45-174号であり、刑法典及び刑事訴訟法典と同様に、度重なる改正の結果、非常に複雑かつ読みづらい状況になっている。その特徴は、①犯罪少年に適用される刑事手続の簡略化、②少年裁判の迅速化を図るための少年係判事への権限付与、③制裁宣告前の適切かつ有効な観察措置の実施、④被害者への配慮である。 上記2つの動きは、社会的反作用のもつ対象別効果をテーマとする本研究において、無視できないものであるため、さらなる精査を必要とする。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、各保安処分の対象者別効果を測定し、総合的再犯予防策の具体化を図ろうとするものであるが、これまで、各保安処分の対象者別効果測定の前提となる制度概要及び運用状況を精査し、比較検討の基本的視座を獲得することができた。 今年度は、これらを踏まえつつ、まずは、少年に対する効果に関する検討に着手した。フランスでは、少年刑事司法法典の立法化が進められており、その立法動向は、本研究に直接影響をもちうるものと考えられるため、同法典の内容について、公表された法案を元に、分析を進めているところである。また、フランスで刑罰法の改革が行われている点も、保安処分と刑罰の関係を考察する上で、無視できない。そこで、刑罰改革を目的とする2019年法も研究対象に含めて検討を加えている。 なお、刑罰及び保安処分をめぐるドイツの動向に関しても、目下、文献調査を中心に進めているところである。 以上の点に鑑み、2019年度において、期待される成果は上げることができたと考えている。従って、本研究は、おおむね順調に進展しているといえる。
|
今後の研究の推進方策 |
2020年度は、本研究の最終年度であり、これまでの研究成果を踏まえた上で、各保安処分の法的性質及び他の措置との関係の明確化を図りつつ、各保安処分の対象者類型の分析、及び、対象者類型ごとの効果測定を具体的に展開する。もっとも、フランスで刑罰及び少年刑事司法をめぐって大きな動きがあったこともあり、刑罰と保安処分の関係、多様化した社会的反作用をめぐる理論的展開及びその運用状況等についても継続して精査する必要がある。 上記検討を並行して進めながら、各保安処分の対象者類型の分析、及び、対象者類型ごとの効果測定をさらに進めていく。少年、高齢者、精神障害者、身体障害者等のカテゴリー別の特性が、これまで少年を中心に展開されていた「要保護性」といった概念で包括されうるのか、この概念が、予防効果を追求する保安処分に対する抑制原理として機能しうるか否か等も念頭に置いて、分析を加える。 最終的には、本研究の目標として掲げた通り、各保安処分の刑事司法全体における位置づけを明確にした上で、再犯予防の実質化、そして、総合的再犯予防策の構築を目指す。 なお、本研究の推進方策として、研究会報告及び学会報告を最大限活用する。研究の進捗状況及び暫定的結論を各研究会で報告、質疑応答を通じて各会員から示唆をえる予定である。これにより、多方面からの意見を吸収し、本研究を効率的に進めていきたいと考えている。 1点懸念されるのは、新型コロナウィルスの影響である。2020年度中の海外調査が可能か否か、文献の入手が可能か否かについては、依然、予断を許さない状況である。オンラインによる情報収集でカバーしつつ、諸々の動向を見守る必要がある。
|