研究課題/領域番号 |
17K03437
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研究機関 | 中央大学 |
研究代表者 |
只木 誠 中央大学, 法学部, 教授 (90222108)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 自己決定(権) / 承諾(同意) / 拒否権 / 終末期医療 / 自殺幇助 / 臨死介助 / 臨死介助協会 |
研究実績の概要 |
本課題研究の最終年度にあたる本年度(2019年度)においては、一昨年以来行ってきたところの、わが国、ドイツ、また、スイスにおける文献の収集・整理作業を継続し、並行して、両国の研究者の協力のもと、各種調査活動を行った。 すなわち、国内での活動としては、関連文献等の収集・整理と分析、調査等の作業であり、また、夏、冬のドイツ滞在において実施した、標題のテーマにかかるドイツ、スイス両国の状況についての資料収集、調査、そしてまた、情報・意見交換、共同研究等の活動である。後者について、具体的には、夏の滞在においてはゲッティンゲン大学のデュトゥゲ教授、ブツェリウス・ロースクールのゲーデ教授らの、明けて2月下旬から3月初旬の滞在においても同様に同教授らの協力を得た。 一方、本研究期間の当初より本年度における実施を計画していた、日本、ドイツ、スイスの研究者による終末期医療をテーマとしたシンポジウムの準備をデュトゥゲ教授らとともに進め、10月5日(土)・6日(日)の両日、中央大学日本比較法研究所の主催による国際シンポジウム「終末期医療、安楽死・尊厳死に関する総合的研究」が開催の運びとなった。「終末期における人間の尊厳」「治療中止とその正当化要件」「積極的臨死介助」「患者の指示書(リビングウィル)と自己決定権」「終末期医療における諸問題」「臨死介助協会とわが国の対応」と題した6つのセッションでは、日本側とドイツ、スイス側の当該研究で第一線に立つ報告者からはそれぞれ内容の濃い重厚な報告が、コメンテーターからは問題意識を喚起する興味深いコメントがなされ、これをうけての活発な質疑応答、議論が交わされてシンポジウムは盛会のうちに幕を閉じた。本シンポジウムでの成果は、わが国の終末期医療における法的対応のあり方の今後について一定の示唆を提供することに資するものとなり得たと考えるところである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本課題研究は、終末期医療における自己決定と臨死介助の諸相ならびに臨死介助協会をめぐる諸問題の検討をテーマに、当該研究において先端を行くとされるドイツまたスイスの状況や法制度を参照しつつ、わが国の状況を分析し、比較法的な見地から、わが国の今後の議論の参考に供する視座を得ようとするものであるところ、本研究期間中、両国の法状況、社会状況についての資料収集・調査活動を行って一定の成果を得ることができた。これについては、ゲッティンゲン大学・デュトゥゲ教授、ヴュルツブルク大学・ヒルゲンドルフ教授、ハレ大学・ロゼナウ教授、チューリヒ大学・ターク教授、ブツェリウス・ロースクール・ゲーデ教授らからの多大な研究協力によるところが大きい。また、同教授陣との意見交換により、彼の地の最新の議論について幅広い知見の獲得が可能となったところである。 これらの研究活動の成果は、論文等においてもすでに公表してきたところであるが、昨年10月に開催されたシンポジウムは、これをさらに広く社会に問うことを意図して企画したものであり、2日間の期間中多数の会場参加者(のべ400名)を集め多くの反響を得たことは、本課題にかかる問題がまさしく現代における喫緊の課題と目されていることの証左であると思われる。なお、このシンポジウムの成果をまとめた報告集は、近日中に、中央大学出版部より、日本比較法研究所叢書としてて刊行の予定である。 このような研究にかかる活動の全体を俯瞰するに、本課題研究は支障なく進捗したと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題にかかる研究においては、比較法的研究という見地から、標題研究テーマにするドイツ、スイスなどの法理論や立法・制度内容、そしてこれらにかかる先進的な議論状況をつまびらかにして検証することを通して、わが国における法整備の可能性とその射程等を探っていくことを主眼として進めてきたものであった。ヨーロッパ諸国、特にドイツ、スイスの状況、その法体制のあり方は、文化や法意識に相違は存するものの、わが国の法整備の態勢を考えていくうえで今後も大いに参照されていくものと思われるが、そういった観点からも、本研究の有する意義は大きいものであったといえよう。その意味で、ドイツ、スイスの研究者陣より得ることのできた研究協力はまことに有益であったところ、今後においても継続的な学術交流を図っていく予定である。また、このような学術交流は、現在、中国、台湾等アジアの諸国との間においても広がりつつあるところである。 終末期医療における自己決定と臨死介助の諸相、また、臨死介助協会をめぐる諸問題について、比較法的に検証を施したかの国々の議論をわが国の議論に有用に結びつけ、そのなかから一定の方向性を導き出すことは、高齢化が大きく進んだわが国の社会において求められる緊急の課題のひとつとなっている。本研究活動を経ての、論稿の公表等を通した試論形成の作業については、今後も継続していきたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
理由:今年度については、大きくは、夏、冬2度の海外滞在資料収集作業にかかる旅費・滞在費等、書籍・雑誌ならびにPC購入、また、消耗品等にかかる経費が主な出費項目であり、書籍等の購入をはじめとして、各購入経費の内容については、おおむね当初予定していたところに沿っていたものであるが、年度末において、支払い手続き時が同時期に重なった品目が複数発生したことから、標記の次年度使用額が生じたものである。 使用計画:標記次年度使用額については、手続き時が19年度末に重なった品目の多くについてすでに支払い手続きが完了していることから、実際の残額はわずかとなっており、これについては、消耗品等購入にかかる経費として充当の予定である。
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