本研究は,2009年の裁判員制度の実施を契機として,刑事証拠法の存在意義が従来にも増して大きくなっていることから,そのような構造的変化に照らし,わが国における既存の刑事証拠法の理論とルールが裁判員制度導入後の刑事裁判に果たして適合的で,かつ十分なも のといえるかどうかについて,根本的な見直しを行い,あるべき方向性を探究することを目的とする。そのため,3年度にわたり,①陪審制度の下で刑事証拠法の高度の発展を見る英米法系諸国のみならず,参審制度を採用するドイツ,フランスなどの大陸法系諸国,更には独自の陪審制度を採用した韓国などをも含めて,諸国の法制や運用の実情について調査・分 析を行うとともに,②わが国での裁判員裁判のこれまでの実施状況の統計的分析と最前線で裁判員裁判に携わる実務家等からの実情聴取により,裁判員制度下での刑事証拠法上の課題と問題点を整理・分析し,併せて③近時の最高裁判所以下の関連判例・裁判例の意義とその後の実務への影響について検討を行った。これらの成果の一部は,2018年に国際連合アシア極東犯罪防止研修所の機関誌に英文論文,2019年5月に法曹三者共催で開催された裁判員制度10年記念シンポジウムにお ける基調講演,および同年10月の司法研修所令和元年刑事実務研究会での招待講演として発表し,それらを含めたより包括的な単行本として公表するべく,作業を進めてきたが,2020年2月頃からの新型コロナ・ウィルスの世界的拡大のため,予定していた海外調査を延期し,今日に至るまで遂に実施できずないままに終わったため,これを補填するべく,さらなる文献資料の収集・分析に切り替えた。そのような事情から,単行本の刊行に向けた作業は完了せず,なお続行中である。
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