研究課題/領域番号 |
17K03442
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
平岡 義博 立命館大学, 衣笠総合研究機構, 教授 (00786444)
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研究分担者 |
藤田 義彦 徳島文理大学, 人間生活学部, 教授 (40598603)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 科学的証拠の信頼性 / 標準鑑定法(SOP) / 判定基準 / 品質管理(ISO) / バイアス / 形態比較鑑定 / 成分比較型鑑定 / ガイドライン |
研究実績の概要 |
〔具体的内容〕7回の研究会議を開催し、科学的証拠の信頼性評価と標準鑑定法(SOP)の確立に向け、調査・研究を行った。過去事案の検証により、誤判原因が科学鑑定に起因するケースでは、主観的な鑑定、未確立な鑑定、捜査に迎合的な鑑定がなされており、社会的承認を得た鑑定法が全国一律な基準で実施される必要性が確認された。そこでDNA型鑑定(出現頻度の信頼性)、形態比較型鑑定(ビデオ画像解析)、成分比較型鑑定(化学分析を用いた鑑定)について信頼性の評価とSOPに必要な要件を検討した。 科学鑑定のSOPに必要な共通要件として、科学的根拠・社会的承認を得た鑑定方法・判定基準・比較すべきデータ量・抗バイアス性の5点である。中でも判定基準は、種々の状況によって変動すれば鑑定結果が全く逆の結果になるため、科学鑑定の信頼性にとって重要な要素であると考えられた。判定基準が不明確な鑑定は、プレッシャーやバイアスの影響を受けやすい。我が国の警察ではバイアスに対する認識は低く、科学鑑定の信頼性に関わる問題として論文(甲南大学紀要)を投稿した。2017年9月、テキサス州のヒューストン法科学センター(HFSC)の調査を行った。HFSCはヒューストン市に属し第三者機関のテキサス法科学委員会の管理を受けて鑑定を行っている。HFSCはISOと徹底した情報公開による信頼性の確保を行っており、今後の我が国の科学的証拠の在り方を模索する上で非常に参考となった。 〔意義〕科学的証拠の信頼性を評価する基本的要件について検討した。これは各科学鑑定のSOP策定への基盤となる。HFSCの鑑定の信頼性に対する諸施策は、今後の我が国の法科学と法科学研究所の在り方を考える上で意義がある。 〔重要性〕本年度に得られた知見や情報は、今後、科学的証拠の在り方のガイドラインをを具体化するため重要なものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度中に研究に必要な備品整備をほぼ終え、海外における調査研究を1件行うなど、当初の研究は計画に従い順調に進行している。 (1)過去事案の検証:1950年からの殺人事件における無罪確定事件を検証したところ、誤鑑定が原因である事例は6%であり、誤鑑定による無罪は2001年から目立つようになったことが判明した。これは科学鑑定への関心が高まったこと、犯罪捜査へのDNA型鑑定の導入が影響していると考えられる。 (2)科学鑑定の信頼性評価法:信頼性の評価に必要な要件の整理を行い、これらを組み合わせ評価法を検討した。科学的根拠・社会的に認証された鑑定法・判定基準・データベースなどの各要件は相互に関連があり従属的関係であるが、鑑定へのバイアス因子は鑑定法そのものとは異なり、別に考慮しなければならない独立的な要因と考えられた。前者を並列、後者を直列で要素を合計することで信頼度(%)を算出し、各要素の重みが数値化する方法をさらに継続して研究する。 実際的な実験データによる信頼性の評価法として、ブラインドテストがある。これは、既知の分析結果を鑑定者に伝えずに鑑定させ、その正誤を集計するもので、実質的な鑑定の信頼度の算出に有用な方法と考えられた。 (3)海外調査:2014年に地方公共団体法人として警察組織から独立したHFSCを調査した。旧ヒューストン市警察部犯罪科学研究所で不祥事のためHFSCの設立となったものであるが、科学鑑定にISOによる品質管理を導入し情報開示を推進する姿勢は、科学的証拠の信頼性向上に有効であり、第三者委員会であるテキサス法科学委員会の管理を受けることで、公正な刑事司法を求めた市民の評価を受けている。HFSCの試みは科学鑑定機関の在り方の参考になるものである。
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今後の研究の推進方策 |
(1)標準鑑定法(SOP)の策定:SOPの基本となる要件に基づき、各鑑定のSOPを具体的に作成する。同時にその鑑定法の信頼性評価(%)を行う。これらの作業は、分担研究者並びに協力研究者が分担して行う予定である。 (2)海外調査:米国FBIのDNAデータベースの担当課の調査を行う。特にFBIでは初期の鑑定法による古いデータベースに基づく出現頻度計算が問題となっている。また、英国の内務省の独立行政法人のFSS(Forensic Science Service)が財政難で倒産後、再編成の動きがあることから法科学鑑定の現状と今後の動きを調査する。 (3)科学鑑定体制のガイドライン:米国ではオバマ政権時に法科学の適正化のためのガイドラインが示された。科学アカデミーによるNAS報告、大統領科学諮問委員会のPCASTなど、本研究に参考になる資料が多数ある。これら資料の調査研究が必要であるが、我が国の法科学の在り方のガイドラインの策定は、5名の専門家による3年間の研究期間ではかなり無理な点もあり、ガイドラインの必要性を研究する方向に軌道修正することを考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
共同研究者の海外調査が、2018年に変更したことで差額が生じた。
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